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“ミスター”から受け継ぐ帝王学 阿部慎之助ヘッド代行をあえて自由に動かせた原辰徳監督の思惑
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2020/10/02 17:00
巨人軍監督になるための“教育”は長嶋茂雄終身名誉監督から原監督(左)へ、原監督から阿部二軍監督(右)へと受け継がれている
阿部ヘッド代行の“けれん味のない言葉”
「何ていうか……彼の良さというか、非常にストレートに野球、プレーヤー、チームに、けれん味のない言葉というのは、私も含めてコーチの人たちにも選手にも非常に新しい、何ていうかな……風がパーッと吹いた。いい影響を与えてくれたと思いますね」(原監督)
確かに阿部流は一軍の選手、特に二軍でも接してきた若手選手たちには、これまでにない刺激を与えることになったようだ。
試合前の阿部ヘッド代行は忙しい。
練習開始と同時にグラウンドに姿を見せるとノックバットを手に若手にノックを打つと、すぐさま場所を変えて守備練習の手伝いと動き回る。そしてフリー打撃が始まれば、打撃ケージの後ろでティー打撃を手伝いながら、手取り足取り打撃指導をして選手たちに様々なアドバイスを送る。
実体験に基づく言葉の説得力
「具体的に教えてもらえてすごく勉強になっています」
こう語ったのは現在、ホームランと打点でリーグトップを走る主砲の岡本和真内野手だ。
阿部ヘッドが合流した16日の阪神戦から軽い腰痛で2試合欠場。復帰直後の3試合で10打数2安打となかなか調子が戻らなかった。
しかしその後は阿部効果もあってか、9試合で打率3割3分3厘、3本塁打の11打点。3本の本塁打のうち1本が右翼席と逆方向への長打も出始めるようになって、4番らしい勝負強さを発揮するようになってきている。
昨年まで現役選手としてグラウンドに立ってきた実体験に基づく言葉の説得力は、岡本のように実績のある選手だけではなく、若手選手にはさらに重い。
試合前の練習では田中俊太内野手や立岡宗一郎外野手、エスタミー・ウレーニャ内野手ら、今季二軍で鍛えてきた選手たち、さらに売り出し中の松原聖弥外野手、若林晃弘内野手らを中心に熱心に“阿部教室”を開講し、選手の動きを見ながら、気づいたことを遠慮なくアドバイスできる。
原監督が指摘したように、そのけれん味のない言葉が選手には大きく響くのである。