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ビエルサvs.グアルディオラ、「戦術的に信じられない」雨中の“美しい試合”の衝撃 

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赤石晋一郎

赤石晋一郎Shinichiro Akaishi

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photograph byMarcaMedia/AFLO

posted2020/09/11 11:50

ビエルサvs.グアルディオラ、「戦術的に信じられない」雨中の“美しい試合”の衝撃<Number Web> photograph by MarcaMedia/AFLO

2011年11月、サン・マメスでのビルバオ対バルセロナ。グアルディオラ(左)とビエルサ(中央)が見つめるなか、“美しい試合”は行われた。

「パシージョ(通路)」と呼ばれる手法

 バルセロナのサッカーでよく見られるのが、敵と敵の間にポジションを取りパスを受ける「中受け」の動きだ。

 ポゼッションサッカーの流行により、日本サッカーでもこの動きはよく取り入れられるようになった。ブスケッツもバルサのサッカーでよくこの「中受け」の動きを見せる。ブスケッツはパス回しとそのポジション取りでゲームを支配する。

 しかし、ビエルサのサッカーは違う考え方で構成される。

「私の理解ではマルセロのポゼッションサッカーの基本になっているのが、DFの前ではなく、DFラインかその裏でパスを受けなさいという考え方です。DFの前でパスを受けても局面は何も変わらない。DFの裏でパスを受ければ局面は一変します。

『パシージョ(通路)』と呼ばれる手法なのですが、局面を変えるパスを出させる為に選手は連動して動き、常に危険な位置にポジションを取るように訓練させられます。ボールホルダーにプレッシャーがかけられた時だけ、『落ちていい(ボールをもらいにポジションを下げていい)』と言われる。

 グアルディオラのサッカーと比較して、マルセロのサッカーは『縦に早い』と評されるのも、このポゼッションの考え方の違いによるものだと思います。」(荒川)

「シルク・ドゥ・ソレイユより面白い!」

 ゴールへの道を描き出すために、より前でボールを回す。昨季、チャンピオンシップを戦ったリーズでも、この「パシージョ」を頻繁に見ることが出来た。

 サイドでボールを受けた選手は、早いタイミングでDFラインの裏とGKの間を狙って低く早いアーリークロスを入れる。このボールをFWはDFラインの裏に抜けて受け、シュートに持ち込むという攻撃パターンだ。

「この攻撃パターンでは、サイドの選手から見るとDFラインの裏側とGKの間に『パシージョ』があるということになります。FWはDFと駆け引きをしながら、常に裏を狙う動き、スペースに飛び込むことを要求されるのです。マルセロは『中の人間がボールに合わせろ』とよく指導します」(同前)

 前線からのハイプレスに、ボール支配を重視するポゼッションサッカー。ビエルサとペップのサッカーは、外形的に酷似している。しかし、その構造は、真逆のアプローチから出来上がっているのだ。
 
「ペップはバルサ特有のロンド(パス回し)を練習で繰り返し、戦術の基本としていると思います。だが、ビエルサは実はポゼッションの練習を一切しません。

 全てシーンごとの練習になっており、その積み重ねがビエルサ・サッカーの基本となっているのです。

 かつてビエルサが率いたチリ代表GKだったピントは、シーン練習を後ろから眺めて『シルク・ドゥ・ソレイユより面白い!』と感想を漏らした。つまりチーム戦術、グループ戦術こそがビエルサ・サッカーの肝であり、その機能美に溢れた動きの美しさをピントはシルク・ドゥ・ソレイユと表現したのです」(荒川)

 ロンドをベースとしたペップのサッカーは、パス回しのための高い技術とポジションセンスが要求される。一方でシルク・ドゥ・ソレイユとも、オーケストラとも評されるビエルサ・サッカーの神髄は鍛え抜かれたチーム戦術にあると、いえるだろう。

【次ページ】 雨中のサン・マメスで行われた“美しい試合”

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