新刊ドラフト会議BACK NUMBER
『わたしはオオカミ』女性が自分を貫くために。大エースの言葉に宿る力。
text by
早草紀子Noriko Hayakusa
photograph bySports Graphic Number
posted2020/09/12 08:30
『わたしはオオカミ』アビー・ワンバック著 寺尾まち子訳 海と月社 1400円+税
アビー・ワンバック――どれだけこの人のゴールに日本はピッチに膝をついてきたことか。なでしこジャパンが世界一になったドイツワールドカップ、日本女子サッカー史上初の銀メダルを獲得したロンドンオリンピック、連覇を目指したカナダワールドカップ……日本の前に立ちはだかる世界女王アメリカの大エースはどんなときでも最強だった。
シュートの音が違う。スピードが違う。「恐怖でしかない」と現なでしこジャパンの鮫島彩は対戦する度に口にしていた。ここぞというときに必ずゴールを仕留める絶対的なその存在。敵ながらピッチに立つワンバックに幾度となく視線を攫われた。弾き飛ばした選手に手を差し伸べる姿、味方を鼓舞する姿、自らのゴール後に味方に向けるまなざし、それを心から受け入れている仲間の姿には羨望すら覚えた。なでしこジャパン以外で、唯一チームの絆を強く感じたのはワンバック率いるアメリカ女子代表だった。