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ビエルサvs.グアルディオラ、「戦術的に信じられない」雨中の“美しい試合”の衝撃
text by
赤石晋一郎Shinichiro Akaishi
photograph byMarcaMedia/AFLO
posted2020/09/11 11:50
2011年11月、サン・マメスでのビルバオ対バルセロナ。グアルディオラ(左)とビエルサ(中央)が見つめるなか、“美しい試合”は行われた。
「戦術的に信じられない試合だった」
当時、ビルバオでプレーし、後にバイエルンでペップの指導を受けることになるマルティネス(現・バイエルン・ミュンヘン)も、この一戦を「戦術的に信じられない試合だった。僕の人生においても最も美しい試合だった」と振り返っている。
“美しい試合”から約半年後。2人の天才監督が最後に対戦した試合が、2012年5月25日のコパ・デル・レイ(スペイン国王杯)決勝戦だった。
バルサを苦しめたことでもわかるように2011-2012シーズンのビルバオはセンセーショナルなチームとなっていた。ヨーロッパーリーグでも決勝トーナメント進出を果たし、イングランドの強豪マンチェスター・ユナイテッドを撃破するなど快進撃を見せ準優勝を果たしていた。
コパ・デル・レイでもビルバオは勝ち進みファイナルに進出していた。決勝の舞台となったビセンテカルデロンで対峙したのがバルセロナだった。ペップは対戦前に「ビエルサは世界最高の監督だ。彼がリーガにいることは幸運だね。彼から多くのことを学ぶことが出来る」と改めて敬意を表明した。
だが、コパ決勝でビルバオは再び“芸術”を見せることは出来なかった。選手の質で上回るバルサに圧倒され、3ー0の完敗を喫してしまうのだ。
バルサについてペップが知らないことも……
試合後、ビエルサは親交あるペップのもとを訪れて一冊のファイルを手渡す。シーズンを終えた安堵感もあったのだろう。ファイルにはビエルサがバルセロナについて詳細に分析したレポートが綴られていた。
突然のプレゼントに驚いたペップは、中身を知り更に舌を巻くことになる。
「バルサについて私が知らないことまで、彼はこんなにたくさん知っているのか!」
エル・ロコは敗れても尚、ペップを感嘆させた。
ビエルサ対ペップの対戦成績はリーガエスパニョーラでは1分2敗。だが2人の対戦は、勝敗の数字だけでは表せないほどの影響を世界中に与えた。
そして今シーズン、あの名勝負が8年ぶりに実現する。プレミアリーグを舞台に2人の天才監督が再び相まみえることになるのだ──。
(前編「“奇人”ビエルサ『私にはその血が必要なのです!』、グアルディオラとの“11時間の議論”」は下の関連コラムからご覧ください)
【取材協力】株式会社 MRH&CANTERA
〈参考文献〉
『ビエルサの狂気』(ベースボールマガジン社)
『PEP'S CITY シティ スーパーチームの設計図』(footballista)
『GOAL.COM』,『OLE.COM.AR』
荒川友康(あらかわ・ゆうこう)
サッカー指導者。アルゼンチンで複数のチームや滝川第二高校での指導を経て、ジェフ千葉・育成コーチ、京都サンガ・トップチームコーチ、FC町田ゼルビアトップチームコーチなどを歴任。ビエルサのみならず、Jリーグでもアルディレスなどの名将の元で働く。アルゼンチンサッカー協会認定のS級ライセンスを所持。FCトレーロス所属。