欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
ビエルサvs.グアルディオラ、「戦術的に信じられない」雨中の“美しい試合”の衝撃
text by
赤石晋一郎Shinichiro Akaishi
photograph byMarcaMedia/AFLO
posted2020/09/11 11:50
2011年11月、サン・マメスでのビルバオ対バルセロナ。グアルディオラ(左)とビエルサ(中央)が見つめるなか、“美しい試合”は行われた。
ビエルサが“聖者”と評される所以
8月、ガレス・サウスゲイト監督が率いるイングランド代表に、リーズのアンカーを務めるカルビン・フィリップスが初招集された。チャンピオンシップ(イングランド2部リーグ)でしかプレー経験のない選手が代表に選出されるという、本人も世間も驚くサプライズ選出となった。
フィリップスはサウスゲイトからの電話についてこう明かしている。
「(サウスゲイトは)最近の僕の状態をチェックしてくれていて、僕のプレーが気にいっていると言ってくれた。それでチームのメンバーに加えたいと言ってくれた」
ビエルサは代表に選ばれたフィリップスに自身が現役時代に纏っていたニューウェルス・オールドボーイズのユニフォームをプレゼントした。荒川に知識を与えたように、フィリップスには歴史を与えたのだ。教え子に自らの血肉を分け与えていく様は、ビエルサが“聖者”と評される所以だともいえる。
ビエルサは“5点の選手を7点にする男”
リーズユース出身のフィリップスは、ビエルサが抜擢した若手選手だ。個性的な髪型にタトゥーだらけの腕と外見はバッドボーイ風だが、プレイヤーとしては練習熱心で地元愛が強いという実直な一面を持つ。
そのプレースタイルは屈強なフィジカルを活かして守備に奔走し、動き回りながら長短のパスを振り分ける。時折、バイタルエリアに進出してはゴールにも絡むというダイナミックなプレースタイルが持ち味だ。
今では期待の若手から一皮むけ、リーズの中核選手となっているフィリップスは、“5点の選手を7点にする男”との評判を持つビエルサによって才能を開花させた。
一方、ペップもバルサ時代に同じポジションのブスケッツをユースから抜擢している。ブスケッツのプレースタイルはフィリップスとは対極だ。中盤の底にドッシリと構え、ロンドで鍛えられたパス技術を活かしながらゲームをコントロールする。
同じポジションの似て非なる2人。フィリップスとブスケッツの個性の違いは、ビエルサとペップのサッカー観の違いを象徴しているともいえる。
ポゼッションサッカーのなかでブスケッツはあまり動かず、高いパス技術とキープ力で敵をいなしゲームをコントロールする役割を果たす。一方でフィリップスはダイナミックに動き回り、人もボールも動くビエルサ・サッカーを体現する動きを見せる。
“技術”で局面を打開しようとするブスケッツに対して、フィリップスは“動き”で局面を打開しようとする、といえば正確だろうか。