“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
J2北九州の点取り屋が必然の爆発。
ディサロ燦シルヴァーノが語る変化。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byGIRAVANZ
posted2020/08/28 07:00
現在、J2得点ランク2位の8得点を挙げる北九州FWディサロ燦(あきら)シルヴァーノ。巧みな動き出しと正確な左足のシュートが武器のストライカーだ。
6試合連続ゴール、不動の存在に。
それ以降は前述した通り、欠場した第11節ツエーゲン金沢戦を除き、スタメン出場を果たしている。出場6試合連続ゴールを決めた第13節大宮アルディージャ戦では今季初の1試合2ゴールをマークし、上位決戦を制した。第14節東京ヴェルディ戦で連続ゴールは途切れたが、最前線で質の高いオフ・ザ・ボールの動きを見せて、周りのスペースを創出。ボールを持てば強烈なシュートでゴールを脅かすなど、存在感は絶大だった。もはやチームの不動のエースストライカーとなっている。
ここで1つ、ある疑問が浮かぶ。人間はたった1つの考え方だけで、ここまで変化できるものなのか。
「開幕戦まで意識を高めていたのですが、今のようになかなか自分をコントロールできていませんでした。開幕戦にもスタートで出られず、悩んでいた時に中断期間と自粛期間が来て、その時間で大きな手がかりを掴むことができたんです」
ディサロがきっかけを掴んだのは壁当てとサッカーテニスだった。
ひたすら壁当てとサッカーテニス。
チームの活動が止まり、何をするにしても1人だった時は近くの公園でひたすら壁当てを繰り返したという。
「壁に向かってシンプルにボールを蹴る。ノーバウンドでトラップをしたり、ダイレクトで蹴り返すことをひたすら続けていました。ただ壁に当てるだけだとそこまでの集中力は要しませんが、大事なのは壁に当たった後のファーストコントロール。低く蹴れば跳ね返るボールは速く返ってくるし、高く蹴ればゆっくりと返ってくる。変化がある中でまず落下地点を読むことに集中力を求められるんです。
蹴る時は肩の力をうまく抜いた状態で蹴って、壁から跳ね返ってくる瞬間に集中力を引き上げる。先に落下地点を読むことができたら、そこからリラックスした状態でボールを迎え入れることができる。時間は決めずに自分がうまくできるまで延々とほぼ毎日やっていました」
サッカーテニスは自粛明けに同じマンションに住むDF新井博人と行った。子供たちやご高齢の人たちがいない時間帯を見計らって、公園の一番低い鉄棒をネットに見立てた。
「ルールはワンバウンドOK、3タッチ以内で相手コートにボールを返すこと。腰ぐらいの鉄棒の高さと長方形のコートの狭さを考えると、高い打点からじゃないとヘディングでスマッシュができないんです。1タッチ目では相手の返しをしっかり吸収することが求められ、2タッチ目ではスマッシュを打てるところにボールを置くことを意識する。
ただ、地面は砂混じりの土で、木の根っことかもあった。バウンドが不規則になるので、まずはそのバウンドを読むための集中力を引き上げる。そこからボールの動きに合わせたステップと体の向きを整える。ラリーが長くなればなるほど、お互いに絶対に負けたくないので終わるまで意識は高く保てるわけです。これまでサッカーテニスは結構やってきましたが、ここまで頭をフル回転させてやったことはありませんでした(笑)」
壁当てもサッカーテニスも、以前は遊び程度でやっていたもの。だが、自分の能力を引き上げる要素の宝庫であることに気づいた。