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井手智がドイツ移籍に求めるもの。
リベロはレシーブだけじゃない。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byAFLO
posted2020/08/31 11:30
6年間過ごした東レを離れ、ドイツリーグのユナイテッド・バレーズ・フランクフルトでプレーすることを決断した井手智。
井手を変えたブランコーチの指示。
きっかけは、'17年に日本代表へ選出され、自身の経験上、初の外国人コーチとなったフィリップ・ブランコーチの指導を目の当たりにしたこと。1つ1つのプレーに対して練習中から細かく指示を出し、質を求めることにおいては、これまで教えを受けてきた日本人指導者と変わらない。だが、試合時のタイムアウトなど、短い時間でも的確で具体的なブランコーチの指示は、井手にとってすべてが新鮮で明確だった。
「日本のやり方を否定するわけではありませんが、たとえば劣勢の時も、今までは『ここが良くない』『ここを立て直そう』と問題点を指摘されることはあっても、だからどうする、までの指示はなかった。自分たちが苦しい状況であればあるほど、内心では『それはわかっているから、じゃあどうしたらいいのか示してくれよ』と思っていました。
でもブランさんは違う。あの短い時間で『相手チームで今キーになるのは○○だ』と指摘して、その選手を封じるためにどんな手を打つべきか。しかもそれは今なのか、もっと後なのか。そのためにサーブターゲットは誰にするのか。ブロックで塞ぐコースはどこで、レシーブはどこを拾うか。全部が明確で、漠然とではなく今やるべきことを伝えてくれるので、同じ短い時間でも、ものすごく会話数が多い。しかもうまくいかなければ『俺が悪い』、うまく行けば『よくやった』と褒めてくれる。そういうやり取りで、信頼関係が生まれるのを実感しました」
レシーブ技術なら負けない。でも。
重ねた経験や、厳しい練習で培ってきた技術に対する自負もある。だが、それで満足していたらここで止まってしまう。
「レシーブ技術なら負けないと思う選手はたくさんいます。でも、人と会話する、どう話したら理解してもらえるか、そういうコミュニケーション能力も含めて評価するなら、間違いなく今の自分よりも海外の選手のほうが優れている。僕自身、もちろんまだまだ伸ばすべき技術はありますが、指導者に対して求め、伝えるコミュニケーション能力とか、技術以外に伸ばしていかないといけないことがたくさんある。それができるのは、海外なんじゃないか、と思ったんです」