バレーボールPRESSBACK NUMBER
井手智がドイツ移籍に求めるもの。
リベロはレシーブだけじゃない。
posted2020/08/31 11:30
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
AFLO
行きたい、とも、行かなきゃ、とも違う。
「僕はものすごく、後悔していたんです。だから、行きたい、行かなきゃ、ではなく、行く。確かに不安はあります。でもそれ以上に、動かず後悔するのが嫌でした」
2017年に男子バレー日本代表に選出された井手智は、ワールドグランドチャンピオンズカップではベストリベロに輝いた。だがその翌年、イタリア、ブルガリアで共催された世界選手権に出場するも、出場機会は限られ、1次リーグ敗退。翌'19年は日本代表候補に選出されたものの、ネーションズリーグのわずか数試合の出場に留まり、ワールドカップのメンバーからは落選。2020年の日本代表登録選手の中に井手の名前はなかった。
「もしも予定通り今年オリンピックが開催されていたら、出るチャンスもなかった。その時、後悔したのは選ばれなかったことではなく、勝負の年を迎えるまでの過程でした。世界選手権で満足行く成績を残せず、このままじゃダメだと思っていたのに、そのまま環境も変えず、いつも通りの1年を過ごしてしまった。
どうしてあの時動かなかったのか。どうしてもっとバレーボール中心に、バレーボールのことだけを考える生活にしなかったのか。やるべきことをやって選ばれなかったのなら納得もできますが、やらなかった後悔は消えない。それじゃあダメだ、と思ったんです」
海外移籍を考えた'16年オフ。
海外でプレーしたい。
そう思ったのは今回が初めてではない。学生時代はU21日本代表にも選出されたが、東亜大卒業後に入団した東レアローズではなかなか試合に出られず、自らの実力不足を実感した。
環境を変えたら何かが違うのではないか、と入団2年目のシーズンを終えた2016年に「海外へ出たい」とチームにも申し出たが、その時は何のために海外へ行きたいか、行かねばならないのかと問われたら明確な答えはなかった。「日本で結果を出してからでも遅くないのではないか」という返答も、確かにその通りだと納得した。