令和の野球探訪BACK NUMBER
篠木健太郎は高校野球をやりきった。
木更津総合エースの涙と「幸せ」。
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2020/08/20 15:00
強豪揃う千葉県大会を制した木更津総合。投打に活躍したエース篠木は大学進学を希望している。
1年で甲子園を経験、昨年は叶わず。
好投手の多い千葉県でも1年生から目立つ存在だった。
入学直後の春から柔らかいフォームから伸びのあるストレートを投じ、一昨年の夏の甲子園でも敗れた3回戦の下関国際戦で2イニングに登板。終盤の8回と9回に1失点ずつを喫する、ほろ苦い“甲子園デビュー”であったが、必ずこの場所に戻ると心に誓った。
だが昨夏、昨秋と、ともに県大会準決勝で習志野に敗れて甲子園出場はならず。「実力不足を痛感した1年でした」と、同校を甲子園に導いた早川隆久(早稲田大4年)、山下輝(法政大3年)、野尻幸輝(同2年)と自らを比較し、「勝てる投手になること」を追い求めた。
その中で「9回投げ切って勝って初めてエースだと思ったので力感の調整ができるようにやってきました」と振り返るように、今季はメリハリの効いた投球ができるようになった。決勝の終盤でも140キロ台後半のストレートを投げ込んだ。1点リードした8回の無死一、二塁のピンチでも「最初から狙っていた」というバント処理で三塁を刺すと、次打者を「ここが勝負、ここ抑えたら流れが来ると思ったので思いきり行きました」と自慢のストレートで注文通りの併殺打でピンチを凌いだ。
また、主将としての責任感も篠木をより大きく成長させた。五島卓道監督が「自分だけのピッチングだったのが周りも見えるようになりました」と目を細めたように、篠木自身も内面の変化を強く感じている。
「今ある状況が当たり前ではない」
「ピンチの時の余裕が昨年とは違いました。周りを信じることができましたし、仲間から声をかけてもらい幸せでした」
「自分だけじゃなくみんなで楽しむことができました」
「(高校で最も学んだことは)人のために使った時間は自分に返ってくるということです」
わずか10分足らずの優勝インタビューでも、何度も感謝の言葉や「幸せ」という表現を使った。この先に甲子園がないことを問われても、「まず、今ある状況が当たり前ではないので、開催にご尽力いただいた方に感謝の気持ちでいっぱいです。3年生の夏は集大成なので、自分たちの発表の場を与えていただき嬉しいです」ときっぱり言い切った。