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なぜ監督はエースを降板させなかった?
仙台育英の“あり得ない起用”の真実。
posted2020/08/21 07:00
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Kyodo News
いつもの仙台育英なら、継投してもおかしくはない展開であっても、エースの向坂優太郎はマウンドに立ち続けた。
8月15日、倉敷商との甲子園交流試合。先発の向坂は3回まで1安打無失点に抑えながら、1点を先制した直後の4回裏に同点とされ、完全に主導権を相手に奪われてしまった。
「1イニング13球前後」がベストな球数と言われるなか、この回まで平均13.5球とゲームを作ってきた。
そのエースが、生命線であるツーシーム系のボールを相手打線に見極められ、ことごとく痛打される。5回には1安打3四死球と乱れ31球も要し、1-2と勝ち越しを許してしまった。
ゲーム展開を考えれば、この時点で向坂を降板させてもよかったはずだ。というのも、仙台育英は東北大会までの9試合で延べ32人の投手が投げ、1試合平均でも3.6人で継投してきた。したがって、エースといえど交代は十分に考えられたわけだ。
しかし、こちらの予測とは裏腹に、向坂は6回のマウンドに上がった。ところが、さらに1点を与え1-3。さすがに交代だろうと思われた7回も続投したが、4長短打を浴び3点を追加されたところで降板した。
「『行けるところまで投げさせよう』と」
6回1/3を投げ6失点。
球数は109。
監督の須江航は「100球を目処にはしていた」と述べたうえで、向坂の起用法を明かした。
「行けるところまでは、と。たとえ相手の打線に捕まったとしても、『行けるところまで投げさせよう』と考えていました」
エースに全幅の信頼を置くのは当然である。とはいえ、まさか須江の口からこのような言葉が出るとは思わなかった。
なぜなら彼は、現代の高校野球において先鋭的な投手起用を実践する監督だからだ。