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バルサ粉砕、バイエルンの周到さ。
コロナ禍での“ブロイヒの準備”とは。 

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中野吉之伴

中野吉之伴Kichinosuke Nakano

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photograph byGetty Images

posted2020/08/19 17:00

バルサ粉砕、バイエルンの周到さ。コロナ禍での“ブロイヒの準備”とは。<Number Web> photograph by Getty Images

CL史に残る圧勝劇を飾ったバイエルン。それを生み出したチームスタッフの働きも無視できない。

凄腕漁師のように、網へとかける。

 バルセロナが必死に打開策を探ろうと中盤へパスを入れると、前の選手がすっと下がり数的優位な状況を作る。狭めたエリアから相手を逃さないように、パスを出されたくないコースを潰しながら、ボールホルダーヘ矢継ぎ早にアタックする。魚を逃さないよう網へ誘導して、一網打尽にする凄腕漁師のように。

 バイエルンは、しっかりボールを奪い切ることで試合の主導権を握ることができた。

 監督がどれだけ前線から積極的に相手を追い込み、試合を通じてゲームを掌握する、というプランを思い描いても、選手が実践することができなければどうしようもない。

 バイエルンの選手たちは疲れを見せず、驚くべきハイパフォーマンスを続けていたが、彼らはなぜ、そこまでのコンディションを手にすることができたのだろうか。

ブロイヒという名参謀の存在。

 その謎を紐解く重要人物の1人が、ホルガー・ブロイヒだ。

 世間一般的にはフィットネスコーチという役職にあたるのだろうが、バイエルンでは「科学とフィットネス部門チーフ」というオフィシャルな肩書を持っている。ミュラーは親愛を込めて「ミスタープロフェッサー」と呼び、ボアテンクは「ブロイヒは皆から褒め称えられるべき仕事をしてくれている」と最大限の賛辞を送る。

 どのクラブにも深刻な影響を及ぼした新型コロナウイルス。それはバイエルンとしても同様だ。

 クラブに必要だったのは、そんな中でもしっかりと準備を進め、いつになるかも分からない試合に向けて、選手たちのコンディションを維持できる取り組みだった。

「そんなことについて書かれている教本なんてどこにもなかった。3月の段階では、そもそもリーグが再開されるかどうかさえ誰にも分からなかった」

 そう語るブロイヒが考え出したのが『サイバートレーニング』だ。これは、オンライントレーニングとは違う。

「ただの個別練習ではなく、最高レベルのチームに向けたトレーニングが必要だった」

 普通、オンライントレーニングを行うためには機材を準備し、カメラを固定し、接続を設定する。とはいえ選手みんなが器具を持っているわけではないので、やれるメニューが限られてしまう。

 ブロイヒは『サイバートレーニング』を行うためのスタジオをトレーニングセンターに作ってもらった。トレーニングに必要なすべての機材をスタジオに設置し、ボタン1つですぐにカメラ、ネットにつながり、トレーニングを開始することができる。さらに各選手の自宅にはエアロバイクやトレーニング器具を届けて、トレーニングの幅を広げた。

【次ページ】 サイバートレーニングの効果てき面。

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