ぶら野球BACK NUMBER
神戸で思い出した野球観戦の快楽。
野球場は狂おしい程に自由なのだ。
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byYasutaka Nakamizo
posted2020/07/18 10:00
0人と5000人の差は、5000人と5万人の差よりもずっと大きい。そんなことにも気づかされる。
令和の巨人は若手が育つ。
それにしても、初回に一時は逆転となる2点タイムリー二塁打を放った岡本和真は本当に立派な4番になった。最近の巨人はトレードが活発で、ウィーラーとサウスポー池田駿のように若手も交換要員として移籍するが、数年前まで巨人の20代選手の移籍は「せめてあと2年早く出してやれば」的なケースが多かった。
それが最近のなるべく旬の時期にそれぞれ新天地へ……という流れは、ベースに「24歳・岡本和真を不動の4番に育て上げた」という圧倒的ファクトがあるからではないだろうか。
結果は出した。もう周囲の声を気にせず思い切ったチーム編成をする。宇佐見真吾や高田萌生を放出したが、裏を返せば大城卓三や戸郷翔征らが戦力として見通しが立ったということでもある。若手が育てられないなんて平成の遺物だ。令和の巨人軍は着実に変わっているのである。
みんな野球が好きなんだな。
といっても、目の前の試合は敗色濃厚だ。7回表の青木の2点タイムリーでダメ押し。ちなみに伊賀氏とは隣のブロックで分かれて座り、ほとんど会話ができない距離だったが、試合中のLINEとアイコンタクトにゼスチャーという、遠目から見たら中年男2人で野球モノマネをかまし合う変態に見えなくもない、こちらも新スタイルの観戦となった。
それにしても思ったよりも、空席が目立たない。プレイガイド関係者と雑談した際に、グループ来場者が勝手に詰めて座ることを心配していたが、試合中はほとんどの観客がルールを守り割り振られた席番に座っていた。みんな野球が好きなんだなと思った。
なにかあれば、TVのワイドショーでは「ルールを守れない野球ファン」という論調で語られるだろう。それぞれが小さな我慢を重ね、せっかく有観客試合まで辿り着いた。軽率な行動でこの風景を台無しにはしたくない。大袈裟な言い方になるかもしれないが、2020年7月11日に全国の球場へ行った1人ひとりがそう思っていたのではないだろうか。