ぶら野球BACK NUMBER
神戸で思い出した野球観戦の快楽。
野球場は狂おしい程に自由なのだ。
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byYasutaka Nakamizo
posted2020/07/18 10:00
0人と5000人の差は、5000人と5万人の差よりもずっと大きい。そんなことにも気づかされる。
3席離れたおじさんの屁の音まで聞こえる。
天気はなんとかいけそうだ。三塁側内野席前方、グラウンドはいつもと同じ。だが、いつもとは少し違う風景が広がっている。巨人戦は基本満員なので、これだけ前後左右余裕のある状況で観戦できる機会はない。正直、めちゃくちゃ見やすい。
一方で異様に静かなので普段は全く聞こえない音(客席の一眼レフ連写音とか)が意外と観戦中に気になったりもする。当然、夏のマスクの付けっぱなしは蒸れてかなりキツそうで、冷感マスクは球場必須アイテムになるだろう。4503人の観客は得点シーンにもタオルを振らず頭上に掲げるという2020年球場応援スタイルに一瞬戸惑いつつ、次第に手拍子で適応していく。
ぷう~~っ。
えっ? 不意に風に乗って3席離れたおじさんの屁の音まで聞こえてくる。ソーシャル・ディスタンス・オナラだ。小鳥のさえずりにおじさんの放屁、絶え間なく鳴り響く球音。そして、選手の声。
スタジアムのあまりに平和な空気。
なんて平和な空間なんだろう。平和すぎてショート坂本勇人がしまりのない送球ミスを連発している。良くも悪くも背番号6は背中で、プレーでナインを引っ張る。時に、キャプテンが不調だとチームのムードも沈んじまう。
対照的に1回表にチーム通算8000号を放った、ヤクルト左翼の青木宣親はチェンジでベンチに戻ってくる度、内野陣に「いいよいいよナイスプレー!」とか、18歳下のサード村上宗隆の好捕にも「本職(の動き)だったよ!」と声をかけまくり、まさにチームリーダーという雰囲気だ。
現在38歳の青木だって、20代後半のメジャーへ行く前はああいうタイプじゃなかった。人は変わる。2000安打が見えてきた31歳の“スペシャル・ワン”坂本も、キャプテンとしてはまだまだ発展途上なのだろう。