Jをめぐる冒険BACK NUMBER
カズにデル・ピエロ、叫ぶ青嶋アナ。
セリエAダイジェスト伝説と遊び心。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byAtsushi Iio
posted2020/07/20 07:00
取材に応じてくれた青嶋アナ(左)と当時プロデューサーの村社淳氏。彼らの情熱が伝説のサッカー番組「セリエAダイジェスト」を生み出した。
硬派なハイライトじゃ面白くない。
もっとも、セリエAの中継自体は衛星放送でWOWOWが'91年から始めていた。後発の放送局が同じように硬派なハイライト番組を作っても面白くない。
遊び心の詰まった番組作りは当時のフジテレビの社風であり、村社自身の目指すところでもあった。すでに『デタカルチョ』というJリーグのマニアックな予想番組を立ち上げていた村社は、『セリエAダイジェスト』においても実験的な演出を試みる。
サッカーのシーンがまったく出てこないオープニングも、そのひとつ。さらに、「ジョカトーレ・カケトーレ」という得点予想のコーナーを作った。
これは、対象となる8人のジョカトーレ(イタリア語で「選手」の意味)が得点するかどうかを当てるもの。得点すると思えば「○(マルカトーレ)」、しないと思えば「×(バツカトーレ)」とハガキに書いて送ると、全問正解者の中から毎週1人にセリエA観戦ツアーが当たるという夢の企画だった。
賭けの対象となるストライカーには、ニックネームが付けられた。このニックネームが、のちに番組の重要なカラーとなる。
ロベルト・バッジョ=無冠の帝王
ルート・グーリット=フィールドのエゴイスト
ジュゼッペ・シニョーリ=フィールドの貴公子
ガブリエル・バティストゥータ=突貫小僧
ダニエル・フォンセカ=ウルグアイの怪物
アベル・バルボ=右足のスナイパー
ルーベン・ソサ=ゴールの詩人
あくまでもセリエAは「アー」だ。
こうした遊び心を利かせる一方で、村社には本格志向のこだわりもあった。それが、「A」の発音である。
「WOWOWは『エー』と英語で発音していたんだけど、違うよねと。うちはイタリア語で『アー』にしようと、出演者、ナレーター、全員に徹底したの。そうしたら、その後、どんな番組も『アー』になった。サッカー界でひとつの貢献ができたんじゃないか、と勝手に思っているんだけどね(笑)。WOWOWとは違うサッカー番組にしたいという想いが集約されたのが『アー』だった」