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生前のクライフの“理論派監督”批判。
では、真に「美しいサッカー」とは?

posted2020/06/28 19:45

 
生前のクライフの“理論派監督”批判。では、真に「美しいサッカー」とは?<Number Web> photograph by ANP/AFLO

“フライング・ダッチマン”ヨハン・クライフは、優れた選手であるだけでなく、まさに革命家だった。

text by

永井洋一

永井洋一Yoichi Nagai

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ANP/AFLO

 新型コロナ禍が世界中でいまだに猛威を振るう中、それでも徐々にスポーツイベントが帰ってきました。日本ではJリーグがついに再開。NumberWebではこんな時期でこそ、もう一度読んでいただきたい『Sports Graphic Number』の過去の記事(901号「『美しいサッカー』とは、何だったのか」より)を、特別にWeb上にて公開することにいたしました。
 今回は、永遠のカリスマであるヨハン・クライフ自身の言葉で解説する、貴重な「トータルフットボール」概論です。

「今、フットボールの世界はテクニックのレベルが下がっていると思います」

 1999年4月、IFFHS(国際サッカー歴史統計連盟)から「20世紀欧州最優秀選手」に選出されたばかりのヨハン・クライフは、自ら選手として、そして指導者として具現してみせた“スペクタクル”と形容されるフットボールについて、さらには来る21世紀のフットボールのあるべき姿について熱く語った。マネージャーから何度も「時間だ」と催促されても、身振り手振りを交えた熱弁は一向に止まらなかった。

「トータルフットボールの土壌は、もともとあの頃の私たちの中にあったと言えます。それは、攻撃的でクリエイティブなメンタリティーです。私たちには守りを優先するメンタリティーはありませんでした。そこに、ミケルス監督がプロ意識、規律といったものを導入し、チームとしてコーディネイトしていったのです。選手の質も優れていましたから、それは5~6年のトレーニングを経て、とても攻撃的な戦術として形作られていきました。

 ポジションチェンジを頻繁に行ない、チーム全体がコンパクトにまとまり、ハーフウェイラインを挟んで選手全体の幅が攻撃側に15m程度、守備側も15m程度に保たれ、全体が長く伸びないことが基本です。そのようにして常にアグレッシブに戦っていくことが、当時のイタリアのカテナチオのような守備的な戦術と対照的だったために注目されました」

“アートとファンタジー”香るサッカー戦術。

 前線と最終ラインとの間をコンパクトに保ち、ボールを失った瞬間から厳しいボール奪取とスペースを消す動きが始まる。常に相手を自陣に釘付けにしたまま試合のイニシアチブを握り続ける攻撃的な姿勢を貫く。そう、現在、バルサが実践しているフットボールの原型は、'74年W杯で旋風を巻き起こしたオランダ代表にあり、その中心にいたのがクライフだった。

「コンパクト」を標榜する戦術は、厳しい規律とハードワークが求められるため、しばしば機械的なイメージがつきまとい、アートとファンタジーの香りが乏しくなりがちだ。'74年のオランダもクライフがいなかったら、そうだったかもしれない。当時のチームについて、クライフはこう語った。

「一定の責任、義務を全うする中で自由なプレーをしていく、言うなれば一種のカオスです。規律の行き届いたカオスとでも言うのでしょうか。カオスの中からクリエイティブなものが出てくるのですから、相手のチームは守るのが大変だったでしょう。それを具現化するために重要だったのは、フィジカルよりテクニックとポジショニングです。例えば、ピッチ全体を走り回るのではなく、DFが10m、MFが10m、FWが10mというように、合理的に地域を受け持てばいいのです。優れたポジショニング感覚でこの状態を維持し、ボールの動きに集中してプレーする」

【次ページ】 「今のFWは私よりもずっと走っていますね」

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