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ホン・ミョンボに挑み、敗れ、学んだ。
「韓国型サッカー」とは何なのか? 

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吉崎エイジーニョ

吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki

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photograph byYONHAP NEWS/AFLO

posted2020/06/24 11:40

ホン・ミョンボに挑み、敗れ、学んだ。「韓国型サッカー」とは何なのか?<Number Web> photograph by YONHAP NEWS/AFLO

W杯に4大会連続出場、韓国代表史上最多136キャップを誇るスーパースターのホン・ミョンボ。大韓サッカー協会理事として活躍中。

チャント“イギョラ・ホン・ミョン・ボ”について。

 この年にはなんと、1カ月半後に再び個別でインタビューを行う機会があった。Jリーグ25周年バブル恐るべし。ただし、またしても「事前の質問内容」に縛られていた。それでも先方の会議が長引いて開始時間が少し遅れたこともあり、たっぷりと取材時間を取ってくれた。

 余談の時間もあった。

 柏レイソルの話題になった。この年、J2への降格が決まっていた。ホンもそのことを気にかけていて、「決してそんなチームではないはずなのに」と言っていた。

 ふたつ、聞いてみたかったことがあるんです、と切り出してみた。「韓国型サッカー」については、ブラジルW杯で惨敗を喫したから少し関心度が下がっていた。話の流れからレイソル時代のことを聞いた。

 ひとつめは、サポーターのチャントのことだ。

“イギョラ・ホン・ミョン・ボ”

 あの熱狂的なスタンドにあって、選手に合わせて韓国語が歌われることが本当に美しかった。当時のサポーターグループのうちのひとつのリーダーに話を聞いたことがあるが「柏はベッドタウン。だからいろんな人がいる。自分もぶっちゃけ横須賀出身。だから『何でもあり』がコンセプト」と言っていた。そこにもピッタリはまっていた。

 ただし厳密にいうと「イギョラ」とは「勝て」という意味。直訳すると「勝て洪明甫」だ。「イギョラ」を「頑張れ」のニュアンスで使わないこともないが、サッカーの場合あくまで試合に勝つのは「チーム」。少しだけ引っかかると言えば、引っかかる。

 ずっと、この点を聞いてみたかった。本当に、本当に野暮な質問だが。

 この人の返しが素敵すぎた。

「最初の頃はよく分からなかったんです。でも時間が経つにつれ、チーム側も話をしてくれて理解をするようになりました。当時の柏レイソルのチームカラーは本当に大事な試合で勝てないというものでした。弱い相手には勝てるのですが、本当に重要な試合で強いチームに勝てずにいた。だから私は勝つ精神についてチームメイトに話をし、時には怒りもしました。

 当時の柏には本当に能力のある選手が多かったのです。私はあのコールが大好きでした 。レイソルの選手たちが知らなかったことについて、コールを通じて知る機会になり得たのではないかと思っています」

 チームの状況と照らし合わせ、自分なりに咀嚼していったというのだ。聞いた自分が恥ずかしくなった。

「活躍してるんだね」とひと言があった。

 もうひとつ、聞きたいことがあった。

 サッカー専門誌のレイソル担当が断言していた話だ。日本での生活を通じて「ごまだれ」にドハマリしていたという。

 しかしこれについては「ええ、日本の料理も好んで食べていました」とクールにかわされた。

 ただ、専務は帰り際に大韓サッカー協会のエレベーターまで筆者を見送ってくれた。そして、「この後、どこ行くの?」と聞かれた。

「K-POPの取材です。時代が変わってますよね。サッカーだけで食っていければよかったんですが」というと、ちょっと表情を崩し「活躍してるんだね」と声をかけられた。

 思えば、17年かけて初めてあちらから何かを聞かれたのだった。

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