JリーグPRESSBACK NUMBER
中村俊輔のコーナーキックは美しい。
“バックショット”の虜になった瞬間。
posted2020/06/24 08:00
text by
澤田仁典Kiminori Sawada
photograph by
Kiminori Sawada
私が中村俊輔選手の“バックショット”に魅せられたのは2002年のJリーグ取材のことだ。
中村にとってアウェーで迎えたFC東京戦。当時関わっていた編集者から、中村のイメージカットの依頼を受けていた。そこでコーナーキックのシーンで私は敢えて彼のバックショットを狙おうと撮影ポジションを移動した。彼がコーナーに置いたボールを蹴った刹那、かつて聞いたことが無いような、まるでボールが破裂したかと思えるようなインパクト音とともに、体はスローモーションのように宙高く舞い上がった。
その時以来、私は中村のバックショットの虜になってしまった。Jリーグで、日本代表で、海外リーグで、彼のキックシーンをカメラに収めようとトライしてきた。
サンドニに差し込んだ光。
その中で忘れられないシーンがいくつかある。
ひとつ目は2003年6月フランスで開催されたコンフェデレーションズカップでのことだ。1998年ワールドカップの会場となったサンドニ競技場で、前年の日韓開催のW杯のメンバーから落選してしまった中村は、その鬱憤を晴らすかのようにまるで水を得た魚のごとく、いきいきとプレーしていた。
対ニュージーランド戦の後半、コーナーキックを得た中村はキッカーとしてコーナーポストに向かった。この絶好の機会を逃すまいと16mmフィッシュアイレンズを付けたカメラを鷲づかみし、後方に位置取った。カメラアングルを決めようとファインダーを覗いた瞬間、ちょうど斜光が競技場のサンシェードにかかり、幻想的なシーンを醸し出していた。シャッター音とともにコマ切れにモーションする彼は、さながらフットボールの神が与えてくれた“シネマ”の主人公であった。