酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
4割打者、120試合なら可能性あり?
4つの条件に合う候補、大穴は……。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News(L)/Nanae Suzuki(R)
posted2020/06/18 11:50
規定打席未満ながら4割をマークしたことがある近藤健介(左)と、左の最強打者・柳田悠岐。120試合制で夢の成績達成なるか。
実力のばらつきが小さくなった。
それは、打者の「技術」が一定方向に収れんされて、向上したからだという。かつてはいろいろな打ち方の打者がいたが、次第に優秀な打者の技術を真似する選手が増え、打者の「標準偏差=実力のばらつき」は小さくなった。これが「4割打者」が絶滅した原因だというのだ。
投手の立場で説明すると、かつての投手は、ものすごい強打者と対戦する一方で箸にも棒にもかからない打者とも対戦した。投手は強打者には打たれまくる一方で、並みの打者なら簡単に抑えることができた。
しかし今の打者は殆どが似たような技術で打っているので、一定の投手攻略法ができ、並みの打者にもある程度打たれるようになったが、強打者にも打たれまくることはなくなった。これが、4割打者が絶滅した原因だというのである。
さらに言えば近年、ファームシステムやドラフトが整備されたことも要因の1つとなる。毎年優秀な投手や打者が登場し、リーグのレベルが安定的に維持されている。また投打のバランスが大きく変わればリーグ、機構がボールの反発係数やルールを変えるなど、試合環境を維持、調整していることも大きい。
NPBでも同様の現象が。
MLBでは1901年から1930年までに12人の4割打者が出た。この時期は、球団経営も不安定で、選手の質も玉石混交だった。しかし1920年代にカーディナルスのブランチ・リッキーGMが、マイナーリーグを整備し、安定的な人材供給システムを構築して以来、MLB全体の選手の質は向上し、投打ともに「標準偏差」は小さくなった。だから4割打者は出にくくなった、ということになろう。
グールドの説を読むと現代のプロ野球では「打率4割」は、そんなに簡単ではないことがわかる。
NPBが2リーグに分立して70年、日本のプロ野球の実力の高まりは、MLBへの人材輩出を見てもわかるところだ。MLB同様、投打のレベルが上がる中で、4割に迫るような突出した打率を残す選手はイチローを最後に出ていない。
しかも2011年の「統一球」導入以来、NPBは「打低投高」が進んでいた。