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オジュウチョウサンの覚醒にも一役。
進化を続ける馬具の今昔物語。
posted2020/05/25 08:00
text by
石田敏徳Toshinori Ishida
photograph by
AFLO
4月の中山グランドジャンプで史上初の5連覇を達成、障害重賞13連勝を記録したジャンプ界の絶対王者オジュウチョウサンが、「馬具の工夫」をきっかけに本格化したエピソードは有名だ。
平地では勝ち上がれず、3歳秋に障害入り。入障4戦目に初勝利を挙げ、オープンに昇級してからも2勝をマークした同馬だが、一線級相手には歯が立たずに完敗を重ねていた。
4歳暮れ(2015年)の中山大障害も「付いて回ってきただけ」の内容で大敗。このまま手をこまねいているわけにはいかない──。危機感を募らせた陣営が眠れる素質を引き出すために下したのが、「メンコの耳覆いを外す」という決断だった。
イラストなどで競走馬のシンボルのように描かれることも多いメンコは、日本の競馬では耳覆いとセットで用いられるのが一般的(海外の競馬では耳覆いなしのメンコが主流)になっている。耳を覆って周囲の騒音をシャットアウトすることにより、馬を落ち着かせるのが目的で、気性が激しいオジュウチョウサンも入障当初から耳覆いつきのメンコを着用していた。
反応が鋭くなり、闘志もあらわに。
しかし主戦の石神深一騎手は「耳覆いを外せば反応がもっと鋭敏になるかもしれない」と和田正一郎調教師に進言。馬が暴れる危険性も増すため、リスクをともなう決断だったが、力を引き出せていない現状にもどかしさを感じていたトレーナーもこれに同意した。
普段の調教から慎重に“耳なし”のメンコに慣らし、新たなスタイルで臨んだ初戦は直線の不利が響いて2着に敗れたものの、続く中山グランドジャンプ(2016年)は快勝。反応が鋭敏になり、闘志も露にするようになった馬は以降、障害戦ではまさに無敵の連勝街道を歩んでいく。
このオジュウチョウサンほど劇的ではなくても、見せ場のない大敗を繰り返していた馬が、ブリンカーなどの「馬具の工夫」によって一変するケースは多い。