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走高跳・戸邉直人の原動力は、
亡き恩師の言葉と“エビデンス”。
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byNanae Suzuki
posted2020/05/13 11:30
昨年、走高跳の日本記録を塗り替えた戸邉直人。急逝した恩師の言葉を胸に、東京の舞台を見据えている。
手応えをつかんだ矢先の五輪延期。
ただ、今季のインドアシーズン(1~2月)ではある程度、踏み切り位置を遠くした動きが自分でもしっくりくるような形にまとまりつつあるところまできていたという。
「屋外シーズンに向けて、もう少しうまく技術的にまとめればいい感じになるなという手応えを感じていたところでした。結構いい感じにオリンピックに向けた流れができたなと思っていたのですが……」
新型コロナウイルス感染拡大の影響で練習、大会ともに中断や延期が余儀なくされ、今年7月に開幕予定だった東京オリンピックの延期も発表された。しかし、戸邉は前を向く。
「いち競技者として、東京オリンピックの延期が決まって残念な気持ちがあったことは事実なのですが、1年後、自分がどうなっているかを考えたとき、1年後の方が良い状態で迎えられるという自信があるので」
その自信の裏付けになっているのが、理論に基づく確固たる根拠だ。
「競技に対して理論的に理解できているという自信があるので、こうした状況下で最低限何をやっておけばいいのか、抑えるべきポイントは多分、間違ってはいないと思います。だからネガティブになることもありませんね」
ケガのリスクを想定した練習を。
4月7日の緊急事態宣言以降、練習拠点の筑波大が使用禁止となり、「競技力向上のためのトレーニングはできていない」。自宅や近所の空き地で基礎体力を高める動きや、いつでも練習が再開できるような状態にコンディションを整えている。
「走高跳の踏み切り動作の際に受ける衝撃はスポーツの中でもトップクラス。空白期間が出来てしまうと、感覚的な部分ももちろんですが、足首まわりの細かい筋やじん帯、腱が衰えてしまい、トレーニングを再開したときのケガのリスクが懸念されます。リスクを最小限に抑えるため、足の指を動かしたり、つま先だけで歩く地味なトレーニングを続けて、常に刺激を入れるようにしています」