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走高跳・戸邉直人の原動力は、
亡き恩師の言葉と“エビデンス”。 

text by

石井宏美

石井宏美Hiromi Ishii

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photograph byNanae Suzuki

posted2020/05/13 11:30

走高跳・戸邉直人の原動力は、亡き恩師の言葉と“エビデンス”。<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

昨年、走高跳の日本記録を塗り替えた戸邉直人。急逝した恩師の言葉を胸に、東京の舞台を見据えている。

「エビデンスベースでやるように」

 理論派ジャンパーが胸に刻む言葉がある。

「エビデンスベースでやるように」

 この言葉は筑波大の陸上部の元監督で、大学院時代には戸邉のコーチ、指導教員だった図子浩二氏によるものだ。

 長年コーチング学を研究し、学生の指導に当たってきた図子氏は、戸邉が研究と実践を両立する後押しをしてくれた。運動動作の分析をして、その分析結果を根拠にする。課題やトレーニング方法は、エビデンスに基づいてこそ効果があると指導した恩師の教えは、今も戸邉のベースとなっている。

 競技人生最大の転機となった2016年。その年、6月に行われた日本選手権直前に恩師が急逝。ケガの影響もあって、リオ五輪の日本代表メンバー入りを逃してしまった。

「トレーニング自体は基本的に自分で組んでいたので出来る状態ではあったのですが、大事なポイントを相談していた先生が亡くなってしまって、一度、自分をそこで見失い、全然跳べなくなってしまったんです。“ああ、これで自分は競技者として終わってしまったのかな”とさえ思ったほどです」

奮い立つきっかけは、恩師の言葉。

 無力感に苛まれる日々。もう一度自分を奮い立たせられたのは、やはり恩師の言葉だった。

「先生が生前言っていた言葉が頭の中に蘇ってきて、それがすごくエネルギーになりました。今、自分がやるべきことはまさに『競技と研究をやること』だなと思い、モチベーションに変えることができたんです」

 あれから4年が経ち、「自分がやっているトレーニングでエビデンスを説明できないものはないし、根拠をもってトレーニングができている」と自信をのぞかせる。だからこそ、「自分の中でどういうトレーニングをすべきか明確になっているので、そこにコーチが入る隙間がないというか、不都合がない」とコーチも不在。蓄積された研究データこそが、今、コーチの役割を担っているといってもいいのかもしれない。

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