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走高跳・戸邉直人の原動力は、
亡き恩師の言葉と“エビデンス”。
posted2020/05/13 11:30
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
Nanae Suzuki
「東京オリンピックに向けてという意識が一番にありますが、いろいろなものが自分のモチベーションになっています。試合ではほかの選手との競争になりますが、いかに過去の自分を超えて行けるかという競技。2m35を跳んだのであれば次は2m36を、2m36を跳んだのであれば次は2m37を目指すと思います。そういう意味では、記録への挑戦というものが、自分にとって最も大きなモチベーションになっていますね」
昨年2月2日、ドイツ・カールスルーエで行われた陸上の室内競技会で、男子走高跳の戸邉直人が2m35で優勝し、2006年の日本選手権で醍醐直幸がマークした2m33の日本記録を13年ぶりに塗り替えた。
筑波大大学院でフォームの研究。
「研究の息抜きが練習で、練習の息抜きが研究」という理論派は、学部4年、修士2年、博士3年と、9年間にわたって学業と競技を両立させてきた。昨年3月に筑波大大学院博士課程を修了。博士論文のテーマでもある「走高跳のコーチング学的研究」では、従来の研究で述べられていた走高跳でより高く跳ぶために必要な要素を、被験者を使って統計的に調べ、自身の競技力を向上させてきた過程の動作分析を行った。
「なかでも踏み切り動作における力や方向がどのように跳躍に貢献しているかを研究したのですが、結果、踏み切り脚の股関節の外転筋(脚を外に開く筋肉)がよく働くと、上昇力が高まり、より高く跳ぶために有効だと明らかになりました。
研究で導いた理論をもとにトレーニングを行うことで効率化されますし、自分が強くなるため、高く跳ぶためには何が必要で、どういったことを行えばいいのかがクリアになります」