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走高跳・戸邉直人の原動力は、
亡き恩師の言葉と“エビデンス”。 

text by

石井宏美

石井宏美Hiromi Ishii

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photograph byNanae Suzuki

posted2020/05/13 11:30

走高跳・戸邉直人の原動力は、亡き恩師の言葉と“エビデンス”。<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

昨年、走高跳の日本記録を塗り替えた戸邉直人。急逝した恩師の言葉を胸に、東京の舞台を見据えている。

踏み切り位置を30cm手前に。

 踏み切る位置が異なるとバーの見え方も変わり、助走や空中の動作も変わってくる。まさに「踏み切り」は走高跳において肝となる動作だ。

 水平移動から垂直方向の動きに変換させる踏み切りの瞬間は、脚全体で1トンの衝撃を受け止めるようなものだ。助走から踏み切り、空中動作など一連の動きを洗練させていく上で、毎日跳躍練習を行うことが理想ではあるが、「実際にそれをやってしまうと、間違いなくケガをする」という。そうしたリスクを考慮し、実際に跳躍を行うのは1週間のうち最大でも2日、逆に1日もトレーニングで跳ばない週もあるほどだ。

 昨年、日本記録を樹立した後は、東京オリンピックを視野に入れ、さらに記録を伸ばすため、自らの研究データをもとに様々なチャレンジを試みた。

 その1つが踏み切り位置の変更だった。

「さらに高く跳ぶために踏み切り位置を従来よりも30cm程度手前にしたんです。より高くバーを越えようとすると、跳躍自体の幅が必要になります。背面跳びの動きのなかでバーをうまくかわして跳び越えようとすると、ある程度、(手前で踏み切ることで)放物線の幅を広げなければなりません。遠くからバーに向かって飛び出していくという形が理想なので」

表彰台も期待された世界陸上。

 ただ、理論上必要な助走や踏み切り位置が割り出されても、日々の練習で跳躍できる回数は限られており、完全に習得するまでにはある程度の時間を要する。

「昨年1年間、踏み切りの位置を遠くする作業を継続的に行っていましたが、シーズンを通して自分がしっくりくるような形にはまとまりませんでしたね」

 9〜10月に行われた世界陸上を世界ランキング1位で迎え、日本勢初の決勝進出、初の表彰台も期待されていた。しかし、無念の予選敗退となった。

「世界陸上に向けて2~3カ月前から本格的に準備していましたが、そのなかで体の状態的にも、今、やりたいことができる完璧な状態ではないなということを薄々感じていました。その中で何ができるかということを探りながら準備していたんですけど……」

【次ページ】 手応えをつかんだ矢先の五輪延期。

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