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最強ジュビロがテヘランに抗った日。
アジア制覇の価値はまだ低かった。
posted2020/04/30 11:40
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph by
J.LEAGUE
アジアでもっともアウェイの空気感が濃いスタジアムは?
スタジアムの収容能力は重要だ。球技専用かどうかもポイントになる。もちろん、ホームチームが相応の実力を備えていることは大前提だ。強豪クラブではなくともホームの勝率が際立って高ければ、それもまた来訪者へのプレッシャーになる。
実際にプレーする選手にとっては、既知か未知かも重要だろう。圧倒的な威圧感を持つ空間でも、何度も足を運ぶうちに馴染みの景色に変わっていく。観衆のリアクションに、気持ちを揺さぶられなくなる。
では、アジアでもっともアウェイの空気感が濃いスタジアムは?
イランの首都テヘランにあるアザディ・スタジアムは外せない。
1974年のアジア大会でメイン会場となったこのスタジアムが、日本のサッカーファンに広く認知されたのは1997年11月だっただろう。ジョホールバルで岡田武史監督が率いる日本に敗れたイラン代表が、オーストラリア代表との大陸間プレーオフ第1戦を戦ったからだ。
当時のオーストラリアはアジアサッカー連盟ではなく、オセアニア連盟所属だった。
突き刺さるのは12万8000人の憎悪。
テレビカメラが映し出す光景は異様だった。10万人をのむこむスタンドは、通路にもびっしりと観客が埋まっていた。発表された入場者数は、12万8000人である!
そのすべてが男性なのだ。日本のサポーターのように統制の取れた応援ではないものの、荒々しくてストレートな感情がイランを後押しし、オーストラリアを威圧する。
イランの選手がファウルを受けたら、その瞬間に12万8000人の憎悪が剥き出しになる。観衆の反応を聞いているだけで、どちらがボールを持っているのか、どちらが相手ゴールへ迫っているのかが分かる。イランが負けるようなことがあれば、暴動が起きてもおかしくないような雰囲気である。
それでも1-1の引分けに持ち込んだ“サッカールーズ”の逞しさに驚きつつ、このスタジアムの魔力に身震いがする思いだった。