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2019年ルヴァン決勝、川崎を救った
中村憲剛と小林悠、家長昭博の真髄。
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byKiichi Matsumoto
posted2020/04/07 11:30
PK戦を制した後の川崎イレブン。歓喜の小林悠に笑みを浮かべる中村憲剛、背中で語る家長昭博。それぞれの“らしい”姿だった。
憲剛が全神経を使ったCKの質。
「10人になってからマギーニョが入って、竜也もいたことで左右に運動量を確保してもらって、そこからの戦い方がはっきりした。リョウタ(大島僚太)もいなくて、ゲームをコントロールするのは自分しかいなかったから、自分のさじ加減で全てが変わっていく……不謹慎かもしれないけど、物凄く面白かった」(中村)
アップダウンを繰り返す両サイドは、指揮官の狙い通りに縦の推進力を生んでいく。他の選手のポジショニングは流動的になりがちだったが、百戦錬磨の中村が全体のバランスを舵取りすることで、数的不利を感じさせない攻防戦に持ち込んだ。
すると延長後半4分、長谷川がCKを獲得し、絶好の得点チャンスを迎えた。
キッカーの中村はこのひと蹴りに集中を高めていたが、同点弾のイメージを鮮明に描くとともに、カウンターを受けるリスクを避ける配球にも神経を張り巡らせていたという。
「速いボールをニアに引っ掛けて、カウンターを食らうのだけは嫌でした。こちらは1人少ないから。それなら、ちょっとゆっくりで高めのボールを入れておけば、強くは跳ね返されない。かといってク・ソンユン選手にキャッチされるのもNGだった。だから、すごく神経を使って蹴ったボールでした」
「セットプレーに人数は関係ない」
敵陣でのCKから招いたカウンターといえば、日本人なら誰もが思い浮かべる試合があるだろう。2018年のロシアW杯でのベルギー代表戦である。
GKクルトワにキャッチされて始まった鋭いカウンターの前に沈み、日本代表はベスト16で散った。「ロストフの14秒」として語り継がれている場面だが、あの展開だけは避けなくてはいけなかった。
運命のCKを蹴る瞬間、中村はニアサイドに強い動き出しをした選手を視界で捉えている。「セットプレーに人数は関係ないので、ここは逃してはいけないと思った」と話したのは、キャプテンの小林悠である。彼もまた、このチャンスに感覚を研ぎ澄ませていたのだ。
小林めがけて蹴ったボールは相手に弾かれたが、ファーサイドで詰めていた山村和也が左足で合わせた。
正確なミート技術を誇る山村のシュート信条は「枠に入れておけば何かが起きる」である。「ふかさないようにというのは意識していましたね。枠に飛ばさないと、という思いはありました」と本人が振り返った弾道は、シュート性のクロスとなって小林の方に向かっていった。