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2019年ルヴァン決勝、川崎を救った
中村憲剛と小林悠、家長昭博の真髄。
posted2020/04/07 11:30
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph by
Kiichi Matsumoto
そのとき、王者は崖っぷちに立たされていた。
令和最初のタイトルマッチとなった2019年のルヴァンカップ決勝。
当時、J1連覇中の川崎フロンターレは、前半終了間際に阿部浩之のゴールで追いつくと、後半途中から入ったエース・小林悠のゴールで逆転に成功している。残り時間は2分。5度目の挑戦にして、ついにその聖杯を掴みかけていた。
ところがラストプレーとなったCKで、北海道コンサドーレ札幌の深井一希にヘディングで決められて失点。ほぼ手中に収めていた勝利が、その手からすり抜けてしまう。さらに延長前半6分には、ゴール前でファウルを犯した谷口彰悟がVARの介入によって退場処分に。そのフリーキックを福森晃斗に決められ、ついには試合をひっくり返されている。
残された時間は約20分。そして川崎は10人で戦わなくてはならない。「スタジアムには魔物が潜んでいる」と言われることがあるが、自身4度目となる決勝のピッチに立っていた中村憲剛も、この瞬間ばかりは「なんとしても勝たせない何かが、ここにはあるのではないか」との思いが頭をよぎったほどだったという。
王者は、絶体絶命の窮地に追い込まれていた。
大島→マギーニョという勝負手。
だが指揮官の鬼木達監督は冷静だった。
失点直後に、背番号10の大島僚太を下げて、右サイドバックのマギーニョを投入。選手はすでに疲労困憊だったが、数的不利の中でも攻めなくてはいけない。そこで、延長戦から入っていた長谷川竜也とともに両サイドから攻め筋を見出す決断を下したのだ。この難局に指揮官が放った、いわば勝負手だった。
同時に、このベンチワークに奮い立った選手もいる。中村憲剛だ。
大島がベンチに下がったことで、チームの手綱を握る役目を任されたからである。