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パス1000本超もメッシの負荷が……。
セティエンはバルサを再建できるか。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2020/02/24 11:40
セティエン監督就任後、サッカースタイルは明らかに変わったが内容は劇的に改善したと言えない。バルサの混迷期はさらに続くのか。
メッシが中盤に引かざるを得ない。
スアレスに代わってフィニッシャーの仕事に専念できればよかったが、パス本数は増えてもなかなか縦への推進力が高まらないチームでは、メッシがこれまで以上に中盤まで引いてボールを受け、組み立ての局面に深く関与しなくてはならない。
第25節エイバル戦で4得点をマークするなど、ゴールに近い位置にいれば相変わらず圧倒的な存在感を放つ。ただ第21節バレンシア戦から第24節ヘタフェ戦までのリーグ戦4試合で実に6つのアシストを記録した一方で、特記すべきはこの間一度もゴールネットを揺らしていない事実だった。
決定的なチャンスは何度となくあった。それでもわずかに精度を欠いて決めきれなかったのは、心を砕き、体力を削り取られる仕事を山のように抱えているからだったからだろう。
5カ月以上の長期離脱者が出た場合に認められる特例により、バルサは今後、移籍期間外ながら緊急補強が可能だ。しかし、それはスペイン国内の選手限定で、セティエンの腕が鳴るような“最高級食材”は残念ながら見当たらない。
噂にあがっていたのは、ヘタフェのアンヘル・ロドリゲス、レアル・ソシエダのウィリアン・ジョゼ、そして最終的に獲得が決まったレガネスのマルティン・ブライスワイトだ。
ただ、前線の頭数を揃えるためだけに大金を叩くくらいなら、来夏の本命とも言われるラウタロ・マルティネス(インテル)の獲得資金に回したほうが、よほど利口のような気もする。
“伝統の味”への必要以上の固執。
もうひとつ、セティエン・バルサの歩みを鈍らせる要素があるとすれば、それは“伝統の味”への必要以上の固執かもしれない。
ショートパスをつなぎにつなぐ、いわゆる“ティキタカ”が、フィジカルパワーに呑み込まれ、絶滅危惧種となって久しい。ポゼッション・スタイルを志向するにしても、現代フットボールにおいては縦方向へのスピード感が不可欠だ。
第24節、好調ヘタフェのハイライン・ハイプレスにずいぶんと手を焼きながらも2-1の勝利を収めたが、今後もフィジカルで押しに押してくるコレクティブなチームにとって、ノロノロ運転のパス回しは格好の餌食となる。
もちろんセティエンのポゼッション・フットボールは、ただ単にボール支配率を上げることを目的としているわけではない。テンポ良くパスを回すことで敵を食いつかせ、そうして生まれたスペースを突きながら、最短ルートで相手ゴール前に迫ることこそが主眼なのだ。
ボールを愛するロマンチストは、チェスの愛好家らしく、実は理詰めのリアリストでもある。