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フェデラーは22年、途中棄権ゼロ。
その美学とジョコ&マリーとの絆。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byAFLO
posted2020/02/01 20:00
ジョコビッチ戦を終えたフェデラー。そのコンディションを知るロッド・レーバー・アリーナの観衆は万雷の拍手を送った。
「勝てる可能性は3%くらいだと」
「勝てる可能性は3%くらいだとわかっていた」とフェデラー。それでも「がんばるしかなかった。何が起こるかわからない。何も起こらないと気付いてからはキツかったけれど、最終的にはハッピーだったよ。全体的にちゃんとプレーができた。もっといいプレーができるはずだけど、もっとダメな可能性もあったから」
実際の痛みの程度は知り得ない。「3%」が意味する絶望がいったいどれほどのものかもわからない。希望はないに等しい状態でコートに向かう気持ちを尋ねられると、こう答えた。
「過去にもそういう経験はしているけど、『ゼロ』よりはましだ。僕の最悪の経験はロンドンだった」
2014年のATPファイナルズのことを言っていた。あのときのフェデラーは、腰のケガでジョコビッチとの決勝のコートに立つことができず、ファンの前にただ謝罪のために現れたのだ。キャリア4回の棄権の中でも決勝は一度だけ。その経験は心に今も棘のように突き刺さっている。
世界中のファンが自分を待っている。
そして、勝つ見込みがほぼないと知りつつ戦った過去の経験の1つには、2005年の上海マスターズカップが含まれるだろう。
現在のATPファイナルズにあたる大会だが、本来出場するべき8人のうちの5人が欠場するという異常事態となった年だった。出場したフェデラーも実は足首を故障していたが、ファイナルズとしての体裁が完全に失われる中、まさか自分まで欠場するわけにはいかず、しかも出場するだけでなく勝ち残らなければならないという責任を背負った。
そんな中、足を引きずりながら決勝まで進んだフェデラーだが、欠場者に代わって繰り上がりで出場資格を得たダビド・ナルバンディアンに敗れた。
世界中のどこに行っても、ファンが自分を待っている。巨額の金を出したスポンサーも大会関係者も自分に期待している。少なくとも初めて世界1位になってからの16年間、あの上海のような苦しさを何度味わってきたのだろう。