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フェデラーは22年、途中棄権ゼロ。
その美学とジョコ&マリーとの絆。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byAFLO
posted2020/02/01 20:00
ジョコビッチ戦を終えたフェデラー。そのコンディションを知るロッド・レーバー・アリーナの観衆は万雷の拍手を送った。
コートに入ったら最後まで戦う。
ただ、たとえばジョコビッチの場合、途中棄権はデビスカップも含めて15回もあるが、試合前の棄権はキャリアを通して1度しかない。ダメかもしれないが、ジョコビッチのプレーを一目見たいというファンのためにもギリギリまでがんばる。
それがジョコビッチの美学なら、フェデラーにも別の美学がある。
一度コートに入ったら何があっても最後まで戦い抜くこと。それができないならコートに立たない。コート上で治療を受ける姿をファンに見せないし、テーピングなどで痛みや不安を人に気付かせることもない。コートでは可能な限り完璧な姿のままの<ロジャー・フェデラー>で戦い続ける。
だから、関係者の心配は「最後まで試合をするかどうか」ではなく、「コートに現れるかどうか」だったのだ。そんな中、16時から30分間予定されていた練習には姿を見せなかった……。
ジョコ戦後、微かな満足の表情。
ジョコビッチ対フェデラーの通算50回目の対戦。今大会最高の38度まで上がった熱気がまだ残る中、センターコートの1万5000席は見る見るうちに埋まった。
どれほどの人がフェデラーの状況を知っていたかはわからない。しかし、コート入りを待つフェデラーの姿がスクリーンに映し出されたときの歓声には、安堵のため息が多く含まれていたように感じた。
ただ、残念ながら勝負の行方はほぼ決まっていた。それでも「なるべくラリーを短くするようにしつつ、緩急や球種も混ぜて」勝機を見いだそうとしたフェデラーは、第1セット5-2までリードする。
この展開の裏には、当然フェデラーの状態を知っていたジョコビッチの戦いづらさもあったに違いない。しかし第9ゲームでラブゲームのブレークバックを許したフェデラーは、タイブレークで1ポイントしか奪えずにセットを失った。
第2、第3セットはジョコビッチのワンサイド。このカードに期待しうるスリルを、ファンは到底得られなかった。それでも2時間18分の試合をなんとか成立させたフェデラーは、満足の表情を微かに浮かべて、万雷の拍手に何度も応えながらコートを去った。