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フェデラーは22年、途中棄権ゼロ。
その美学とジョコ&マリーとの絆。
posted2020/02/01 20:00
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
AFLO
20のグランドスラム・タイトルを持つ38歳のロジャー・フェデラーの、連続21回目の全豪オープンは準決勝で幕を閉じた。
この日、会場では朝から関係者の間でこんな会話がまるで挨拶代わりに交わされていた。
「フェデラー、試合やりますかね」
19時半からのナイトセッションに組まれていたノバク・ジョコビッチとの準決勝を前に、誰もがそんな不安を口にせずにいられなかったのは、2日前の準々決勝で痛めた股関節の状態が相当深刻と伝えられていたからだ。
世界ランク100位のテニス・サングレンを相手に、7本のマッチポイントを握られながらフルセットの末に勝利したものの、中盤から明らかに動きが悪く、第3セットではコートを離れて治療も行なった。3回戦で地元オーストラリアのジョン・ミルマンに4時間3分の死闘を強いられたことも、ケガに影響していただろう。
プロデビュー以来、途中棄権なし。
フェデラーはいったんコートに入れば、途中で棄権はしない。
プロデビューした1998年以来一度も途中棄権をしたことがない。22年近くの間、ただの一度も、である。ウォークオーバー、つまり試合前の棄権は4回あるが、それでもたったの4回だ。グランドスラムでは一度もない。
しかも初めての棄権はプロキャリア11年目の2008年のこと。元来の丈夫な体に加えて、肉体に過剰な負担をかけないナチュラルなテニスはケガが少なかった理由だろう。しかし、真のプロフェッショナル精神が宿っていなければ到底叶えられないことだ。
これがどれほど驚異的なことかを知るには、ライバルたちの例を見るといい。
フェデラーとともに<ビッグ3>を構成するラファエル・ナダルもジョコビッチもすばらしいプロフェッショナルだが、ジョコビッチはグランドスラムだけで6回も途中棄権している。ナダルもやはりグランドスラムだけで3回の途中棄権と1回の試合前棄権がある。