“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
若月大和「選手権はきちんと観ます」
悔しさはJリーグで、世界で晴らす。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/01/04 09:00
目標の選手権出場は逃したが、激動の1年間を過ごした若月大和。ライバルたちの戦いを目に焼きつけ、プロのステージへ挑む。
試合に出れなかった山本の姿。
冒頭で触れた通り、チームは0-1で敗退。前橋育英を前に守勢に回り、1点リードを許した後半途中から反撃には転じたが、最後まで前橋育英の分厚い壁にはじき返された。
「これだけ自分がいない期間が多くて、みんな尚志戦であれだけのびのびとやっていたのに、僕が入った瞬間に急に窮屈そうなプレーになってしまった。自分だけ浮いているというか、気を使われている状態のまま終わってしまった。3年間一緒にやってきた仲間たちと、全員が絶好調で臨めていないこの1試合ですべてが決まってしまった。一瞬で消え去ってしまった感覚でした」
力が一気に抜けた。ふとベンチを見ると、試合に出ることが出来なかった山本直の姿が目に飛び込んできた。
「俺が出ているより、直が出ていた方が何かが起こったんじゃないか?」
こみ上げる自責の念。号泣する仲間をただ見つめることしかできなかった。必死で涙をこらえたが、山本から「大和、お疲れ。ありがとうな」と声をかけられると、より想いが溢れ出してきた。
「みんなの優しさが辛い時もある」
「こんな形で終わってしまって、ごめん」
ロッカールームに引き上げると、若月はチームメイトにこう声をかけた。もちろん、誰も彼が悪いとなんて思ってはいない。彼らにとっても若月に謝られるのは嫌だった。
「ありがとう」
返ってくるのは感謝の言葉だった。お互いを想い合ったからこその苦しみだと、誰もが理解していた。前橋育英戦後、プリンス関東の残り2節を戦ったところで、彼の高校サッカーは幕を閉じた。
ピッチを離れれば当然、仲のいいチームメイトとなる。普段の高校生活に戻っていたが、やはりふと思う時がある。
「サッカーを辞める奴もいる中で、今も『どうにかしてあげたかったな』と思うんです。僕が留守の間はみんなに本当に迷惑をかけたし、一生懸命頑張っている姿を見てきた。最後にありがとうという言葉をもらって、『俺、ありがとうと言われることをしたのかな』という気持ちの方がどうしても強くて……。『感謝されるほど、何もしていないよ』と思うんです。
もし前橋育英戦や決勝戦でゴールなどを決めて、選手権に行くことができたら、そこまで思わなかったのかもしれないけど、結果足を引っ張って負けてしまっている。やっぱりまだみんなの優しさが辛い時もあります」