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個性を伸ばしても“俺様”にならない。
高校、Jと違う三菱養和の面白さ。
posted2019/12/29 11:40
text by
谷川良介Ryosuke Tanikawa
photograph by
Satoshi Shigeno
「養和ってドリブルできますか?」
中学生になろうとしていた中村敬斗くんは、唐突にこう質問したという。
「え、なにそれ? って最初は驚かされましたよ。でもいいよ、ドリブルをしたければ、すればいいよって」
中学1年からガンバ大阪に入団するまでの5年間、中村の指導に当たってきた生方修司監督は懐かしそうに当時を振り返った。
三菱養和サッカークラブ。知る人ぞ知る、“街クラブ”の強豪だ。
これまでU-18年代では日本クラブユース選手権で優勝3回と準優勝7回、高円宮杯全日本ユースサッカー選手権(現・高円宮杯JFA U-18 サッカーリーグ)では3位が2回、Jリーグユース選手権大会では3位が1回。今季は強豪ひしめくプリンスリーグ関東で4位につけるなど、Jクラブ隆盛の現在も力は健在である。
クラブは巣鴨と調布にそれぞれサッカースクール(幼児~小6)、選手コースとしてジュニア(小4~)、ジュニアユース(中1~)の組織を持ち、ユース(高1~)は1学年15名計45名の精鋭で構成。ユース世代だけに留まらず、小学生、中学生年代でも多くの実績を残している。
「個人を尊重する」ことを大切に。
育成クラブとして輝かしい成績もさることながら、これまで多くのJリーガーを輩出してきた。“黄金世代”の中で異彩を放った永井雄一郎をはじめ、左足と豊富な運動量が武器の田中順也(神戸)や加藤大(福岡)のほか、高校サッカー選手権での活躍が印象深い小川佳純(前・新潟)もジュニアユースまで在籍していた。
そして近年では、東京五輪を目指す相馬勇紀(鹿島)や冒頭で触れた中村敬斗(トゥエンテ/オランダ)らドリブラーを輩出。そして今年は190cmの巨漢FW栗原イブラヒムジュニア(清水内定)をJリーグの舞台へ送り込むなど、育成組織として存在感を放っている。
こうしてOBの名前を見ると、それぞれ特徴が際だった選手を多く生み出してきたことがわかる。それはこのクラブに息づく、ブレないモットーがあるからだ。
「私たちが大切にしていることは『個人を尊重する』ということ。ウィーク(ポイント)となる部分に対しても目を向ける時期はありますが、良さを消さないことが第一。システムにしても、いる選手たちを見て考える。年代が上がるにつれて戦術的なことを求めていきますが、私たちからシステムを当てはめるようなことはしないんです」(生方監督)
スクールやジュニアでは一層、この色は強くなる。まずは余計なことは言わずに、とにかくボールに触れ、サッカーを楽しむ。自由にプレーさせることで、自分の好きなプレーを見つけることができる。そこを最大限に伸ばす指導が三菱養和SCに受け継がれてきたものだという。