“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
若月大和「選手権はきちんと観ます」
悔しさはJリーグで、世界で晴らす。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/01/04 09:00
目標の選手権出場は逃したが、激動の1年間を過ごした若月大和。ライバルたちの戦いを目に焼きつけ、プロのステージへ挑む。
「いない方がいいんじゃないのか?」
日本に帰国したのは前橋育英戦の8日前にあたる11月9日。その翌日、大事な一戦に向けて、強豪・尚志高校(福島)との強化試合が行われていた。帰国翌日とあって、若月は試合には出場せず、ベンチから仲間たちの戦いを見つめていた。
「尚志戦、チームの出来がすごく良かった。僕のポジションには山本直(すなお)が出ていたのですが、スピードで裏に抜け出す僕と違って収めるタイプのFWで、全員が直にボールを預けて何かしようという姿勢が伝わってきたんです。いいサッカーをしているというか、リズムが良くて、周りの選手も生き生きしていた」
驚きだった。チームメイトの頼もしさを感じる一方で、ある思いが彼の頭の中を駆け巡った。
「俺……いない方がいいんじゃないのか?」
しかも、代わりに出ていた山本は若月にとって親友の1人でもあった。小学校の時から顔見知りで、高校でチームメイトになってからは一緒に帰る仲。努力家の山本が、自分がいない時間にレギュラーの座を掴んだことは知っていた。
仲間の「ごめん」が辛かった。
群馬に戻って全体練習に参加すると、“違和感”は一気に膨れ上がっていった。
「大和、ごめん」
若月に対するパスが一度ずれると、チームメイトが謝ってきたのだ。鳥かごでも、ミニゲーム、紅白戦でも自分と連携が合わないと謝ってくる。
「みんなが僕に気を使っているように感じた。それは今年(2019年)に入ってから感じることはあったのですが、この時が一番強烈に感じました。普段だったら『大和、こっちに走ってくれ』、『ここで受けてくれ』とか言ってくれたのに、今は『ごめん』の一言。当然、僕の判断が悪かったり、単純にトラップミスをするシーンだってあるのに……。
『ごめんと言わないでよ、もっと俺に要求してくれよ』と言っても、返ってくるのは『分かった、ごめんな』。もちろんみんな悪気はないし、むしろ僕に相当気を使ってくれていた。優しさだったのかもしれないけど、『謝らないでくれよ!』とずっと思っていたし、その言葉が辛かった」
自分は威張っているわけではない。前橋育英に勝つために、選手権に出るためにチームの一員として戦おうとしている。でも、どうしても周りは「桐生第一の若月大和」ではなく、「U-17日本代表で活躍した若月大和」という目で見てしまう。若月の要求に応えないといけない。そんな気持ちが芽生えてしまっていたのだ。
時間があれば解決できた問題だったかもしれないが、前橋育英戦まで刻一刻と時が迫っていた。若月もチームメイトも、その壁を前に余裕がなくなっていた。
「僕らの年代は本当に仲が良くて、みんなが優しいんです。なので、みんなの気持ちも痛いほど分かった。だんだん僕の方もみんなに『ごめん』と思うようになってしまった」
桐生第一の仲間の多くが若月と同じ前橋SCジュニアユース出身。中学から6年間ずっと苦楽を共にしてきた間柄であり、高校からの仲間もみんないい奴だった。その優しさが仇となったと言うべきか、お互いが気を使ってしまった結果、チームは万全ではない状況で決戦に臨まなければならなかった。