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ホンダの2019年は記録ずくめだった。
V字復活を可能にした「総力戦」。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2020/01/05 19:00
フェルスタッペン、C・ホーナー代表と'19年ブラジルGPの勝利を祝う(左から)田辺TD、山本MD。
マクラーレンからもプレッシャー。
その言葉が間違いでなかったことはすぐに証明されてしまった。ホンダ・パワーユニットはテストだけでなく、シーズン中もトラブルを連発。
性能的にもトップランナーとのギャップを広げられ、コンストラクターズ選手権でマクラーレンはチーム史上最悪の9位にまで陥落してしまったのだ。
HRD Sakura(栃木)で現在、センター長としてホンダのF1開発を統率している浅木泰昭は、当時の様子を次のように述懐する。
「新しいコンセプトにしたパワーユニットに苦しんでいて、マクラーレンからプレッシャーを受けていました。ホンダの中からも、『ホンダはなぜF1をやっているのか? お金を使ってブランドイメージを落としているだけじゃないか?』と言われ、本当に辛い時期でした」
ジェットエンジンの研究部門が助力。
そのとき動いたのが当時、本田技術研究所の社長を務めていた松本宣之だった。本田技術研究所は、四輪や二輪、さらに汎用から基礎技術(ロボットなど)を研究する開発センターなどさまざまな部署に分かれており、HRD Sakuraはその中のひとつの組織だ。
松本は、これらすべての部署を統括する立場にあった。そして、各部署のリーダーが集まる会議で、こう宣言した。
「これからのF1は、HRD Sakuraの数百人のメンバーだけでなく、ホンダのすべての研究所から、必要な人材と知見を持ち寄って戦う」
最初に取り入れられたのは、ホンダジェットの技術だった。当時、ホンダが苦労していたのはパワーユニットの構成部分のなかでも、MGU-Hだった。コンセプトを変えたため、ターボからMGU-Hに続くシャフトが長くなり、共振に苦しんでいたのだ。
そこで、浅木は同じようにターボがあり、シャフトと軸受を持つ、技術的に非常に近いジェットエンジンを開発している航空エンジン研究開発部門に助けを求めた。試作物を作ってもらうと、問題は一発で解決した。