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広報目線で見るプロ野球の契約更改。
綿密な交渉とメディアとの駆け引き。 

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高山通史

高山通史Michifumi Takayama

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photograph byKyodo News

posted2019/12/10 12:00

広報目線で見るプロ野球の契約更改。綿密な交渉とメディアとの駆け引き。<Number Web> photograph by Kyodo News

プロ入り12年目で初の「大台」に到達した日本ハム・大田泰示。メディアの計らいで特大の印鑑を持って写真に収まった。

恒例の写真撮影は選手との闘い。

 更改を終えると、ファンの方々がよく目にするシーンへと舞台転換される。報道陣が控える一室で、記者会見へと臨むのである。ファイターズの場合は、事務所1階の大会議室が会場である。1年間カバーした新聞各社とテレビ各局の担当者らが漏れなく、取材へと訪れる。

 テレビ各局の取材からスタートする。各局が申し合わせて選抜したインタビュアーのアナウンサーが代表質問を務め、選手との質疑応答へと突入する。それを終えると、テレビ各局のディレクターや記者から、フリーで質問が飛ぶ。

 その対応後、さらによく目にすることが多いシーンへと移行する。フォトセッションの時間である。スチールカメラマンの方々が相談の上で、選手に合わせた小道具を用意している。今年は大田泰示選手には特大の印鑑、近藤健介選手には扇子と花びらに模した紙吹雪、有原航平選手にはくす玉などが用意され、それらを使って演出された写真撮影は契約更改交渉の風物詩の1つである。

 絶妙なさじ加減で準備をしている。減俸が予想される選手は、さすがに酷と判断してリクエストされることもなく、シリアスな雰囲気ですべてが終わる。また球団、選手が適切ではないと判断した小道具に関しては使用を控えていただき、お蔵入りになる場合もある。そのため、スチールカメラマンの方々もボツにならないよう、許容してもらえそうなギリギリのアイテムで攻めてくる。受け入れてもらうため、選手とのある種の闘いである。

「大台に乗った?」「1本足りないくらい?」

 上記の一連の流れを終えると、新聞各社の記者が中心の通称「囲み取材」へと移る。数十人に囲まれ、それに応対をする。近年は、ストレートに自ら年俸を明かす選手は減少傾向にある。ただ記者は、その数字を報道するために懸命に探りを入れながら、質問を繰り返していく。

 一例としては「大台(1億円)に乗ったか」など、である。大台到達の感触がなかった場合には「1本(1000万円)足りないくらいか」と質問を可変させながら「推定年俸」と表記される数字へと、たどり着けるように丁寧に取材をする。そのため「推定」をつけた数字で報じられているのである。

 一定の感触を得た後は、フリーの質疑応答が始まる。年明けからの自主トレーニングの予定など、各選手の報じるべきトピックを見つけるために取材をする。選手を大挙して取材できる1年で最後の機会だけに、良い意味で執念深く、丹念に取材を掘り下げていくのである。1年間、寄り添ってもらった取材担当者だけに気心も知れている。オフレコの部分もあり、時にアットホームでウィットに富んだ展開にもなる。

【次ページ】 最後は「答え合わせ」の時間。

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