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“泳いでいるFW”ミュラーを中盤起用。
バイエルン暫定監督の丁寧な仕事。

posted2019/11/22 19:00

 
“泳いでいるFW”ミュラーを中盤起用。バイエルン暫定監督の丁寧な仕事。<Number Web> photograph by Uniphoto Press

この時期の監督交代は計算外だっただろう。しかしタイトル獲得を義務付けられたバイエルンにとっては停滞は許されない。

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中野吉之伴

中野吉之伴Kichinosuke Nakano

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Uniphoto Press

 11月9日、ドルトムントをホームに迎えたバイエルンのスタジアムには、ファンからの横断幕が掲げられていた。

「いい時代も、苦しい時代もともに進む。それがバイエルンファンだ」

 1週間前、バイエルンは長谷部誠と鎌田大地が所属するフランクフルトに敵地で1-5の完敗を喫していた。絶対王者バイエルンが、リーグ戦でそこまでの大差で負けたのは2009年4月4日のヴォルフスブルク戦以来、約10年ぶりのことだった。

 各ポジションに各国代表選手を揃え、自他ともに認める選手層を誇るチームが、まるで試合経験の少ないユースチームのようにバタバタとバランスを崩していった。リーグ7連覇中の王者として、あり得ない姿。だが、それが現実だった。そして翌日、ニコ・コバチ監督は首脳陣と話し合ったのちに、自ら辞任を申し出て、チームを去ることになった。

 コバチ前監督に対しては同情の余地もある。2018-19シーズンに就任したが、ユップ・ハインケスという名伯楽の後を継ぐという難しいミッションに加え、第一候補の監督ではなかった。

 さらに、世代交代を進めなければならないという課題も抱えていた。フランクフルトをドイツ杯優勝に導いた手腕があるとはいえ、指導者としての経験はまだ豊富とは言えず、バイエルンのような世界的トップクラブでの実績もない。

ペップ、ハインケスとの比較。

 選手サイドもフェアな視点で監督を評価しようとはしていたが、主力としてプレーしてきた選手には、やはり、ジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ)という稀代の戦略家、ハインケス(現在は指導者を引退)という人心掌握の天才指揮官と比較されてしまう。

 コバチ監督が全身全霊を傾けてチームに確かな方向性をもたらそうとしても、その思いが100%選手に伝わることは少なく、常に微妙な空気が流れていたのは確かなところだ。

 そんな環境下で、昨シーズンは秋口に一度調子を崩ながらも、なんとかその時期を乗り越え、最終的にリーグとドイツ杯での2冠を達成した。その点は十分に評価に値する。終盤にはバイエルンファンから温かい「ニコ・コバチ」コールが頻繁に聞こえるようになっていたことからも、悪くはない関係性を築けていた。

【次ページ】 ミュラーの扱い、難しい関係性。

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