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“泳いでいるFW”ミュラーを中盤起用。
バイエルン暫定監督の丁寧な仕事。
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byUniphoto Press
posted2019/11/22 19:00
この時期の監督交代は計算外だっただろう。しかしタイトル獲得を義務付けられたバイエルンにとっては停滞は許されない。
ミュラーの扱い、難しい関係性。
だが、今季は序盤からおかしかった。ピッチ上では簡単に勝ち点を取り逃したり、攻守ともに軽率なミスが目立ったりした。キャプテンのマヌエル・ノイアーが度々「今やっているプレーはバイエルンらしくない」とこぼすほどだ。また、指揮官のコメントをめぐりピッチ外で様々な騒動が起こってしまったのもマイナスだった。
誰よりも在籍期間が長く、バイエルンのアイデンティティの象徴ともいえるトーマス・ミュラーが6試合連続公式戦のスタメン落ちとなった時期があった。
そんなミュラーの扱いに対して「選手層に危機的状況が訪れたら起用する」という趣旨のコメントを語ったことで、メディアをも巻き込んで不穏な空気を作り出してしまった。それまで移籍を考えたことがなかったミュラーが、進退について「このままの状況が続くのなら、何か考えないと」と口にするほど追い込まれていた。
コバチ監督はすぐにミュラーと話し、誤解を解いたと説明していたが、だからといってお互いが完全に納得してその後も一緒に仕事をしていくのは難しい。
さらに監督は前述のフランクフルト戦前に「フランクフルトはブンデスリーガでベストのファンに支えられている」とこぼしてしまう……。
古巣へのリップサービスのつもりだったかもしれないが、これにはバイエルンファンも笑っていられなかった。
フリック暫定監督に対しての不安。
フランクフルトファンが作り出す雰囲気は唯一無二の素晴らしいものがある。しかし、バイエルンの指揮官が正直に口にしてしまうのはいかがなものか。
プレー内容が下降線をたどり、選手サイドからの不満も相当たまってきていた時期だったこともいただけなかった。それまでコバチ監督のことを守ってきたウリ・ヘーネス会長、カールハインツ・ルンメニゲ代表取締役も、さすがにブレーキをかけざるを得ない事態に陥ってしまったのだ。
後任には元アシスタントコーチのハンジ・フリックが暫定で就くことになったものの、世間的には期待よりも不安の方が大きかった。
ドイツ代表でも長くアシスタントコーチを務めてきたフリックは、戦術指導やコミュニケーション能力の高さは評価されていたが、トップチームでの指導経験が皆無で、しかも難しい条件でのリリーフだけに、あくまでも新監督が見つかるまでの場つなぎ的な存在と思われていた。