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“ドイツの至宝”ゲッツェが苦悩。
W杯制覇の英雄は消えてしまうのか。
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2019/11/18 11:15
かつては香川真司と抜群のコンビネーションを見せたゲッツェ。再び輝くプレーを見たい。
「アイドル」にも競争は存在する。
攻撃の起点として機能し、後半戦はレギュラーとして6ゴール4アシスト。今季は主力としてさらに活躍してくれるのではないかと期待されていた。だが、今季ドルトムントはドイツ代表ユリアン・ブラント、ベルギー代表アザールといった選手を補強し、ゲッツェの立ち位置はより危うくなっている。
今季11試合中7試合に出場し、スタメンは4試合。2ゴールを挙げているが、シーズン序盤はメンバー入りさえできない状況が続いていた。レギュラーFWであるスペイン代表のパコ・アルカセルが負傷離脱中でも、出場機会が訪れなかったこともある。
ファブレは「マリオ・ゲッツェがドイツにおけるアイドルの1人だとわかっている」と語っていたことがある。そして「だが、どのチームにも競争はある。それを受け入れられなければならない。そして競争が新たな力となるんだ」とも。
競争に打ち勝つだけの存在感を示し続けなければならないのだ。
6節のブレーメン戦で初スタメンを飾ると、初ゴールを挙げて健在ぶりをアピールした。だが9節シャルケとのダービーマッチではチーム全体の出来が悪かったこともあり、チャンスに絡めず58分にアザールと途中交代となった。
理論派ファブレのある振る舞い。
監督が志向するサッカーには合わないのか。
前線で孤立し、相手CBに挟まれた状態でクロスボールを放り込まれたり、ボールを落ち着けようとサイドに流れてパスを受けても、誰もフォローに来なかったりする。交代を命じられると、俯きながらベンチへの道を1人歩いていく。手を負傷していたためにそのままロッカールームに戻るゲッツェに、監督は目もくれない……。
ファブレはどちらかというと理論を大切にし、常に冷静沈着でいようとするタイプだ。うまくいかないことがあっても声を荒げず、淡々と良かったところ、修正すべきところを伝える。気持ちに訴えるような指導をあまりしないとされている。
一方でそうした様子が外から見ると、選手の気持ちに寄り添おうとしていないように見えることもある。
もちろん、監督が試合に集中することは大事だ。そして交代選手のことを気にも留めていないわけではない。交代選手にはコーチやスタッフが声をかけるという分担作業もある。だからこの交代時にゲッツェとのコンタクトがなかったことを報道陣から聞かれたとき、ファブレはひどく驚いて、「そんなことはない。私はマリオのことをないがしろにしたことなど一度もない」と答えていた。
おそらく、それも真実なのだろう。
だが、選手の心は大切にしなければならない。