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甲斐拓也、日本シリーズで漂う風格。
エースに要求した内角と「丸封じ」。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byNanae Suzuki
posted2019/10/22 11:40
日本シリーズで存在感を増す甲斐拓也。第3戦以降も巨人キーマン・丸を封じ込めるか。
甲斐「意味のあるフォアボール」
千賀がマウンドを降りた第4打席は、ホークス2番手の甲斐野央との対戦だった。日本シリーズ初登板の甲斐野は力んでいた。自慢の剛速球がシュート回転ばかりしていた。そうなれば内角に来ることはほとんどなく、実際に外一辺倒の配球になってしまったが、丸は外角球に全く対応できずに空振り三振に倒れた。
千賀はキーマンを無安打に封じて、7回3安打1失点でチームを初戦勝利に導いた。試合後の囲み取材。「まだ終わっていないのであんまり喋れない」と配球については言葉を濁した。だが、あのフォアボールに“意味”を持たせていたのか、どうしても気になる。ならば女房役に話を聞くしかない。
甲斐拓也もまた「詳しいことは言えませんけど」と前置きをしたが、帰りの駐車場で立ち止まってしっかり取材に応じてくれた。
「千賀とは試合前に、相手を探るというより攻めていこうという話をしていました。あのフォアボールは『ここに投げてくれ』と僕が要求したところに千賀が投げきってくれました。決して無駄ではない、意味のあるフォアボールでした」
ポストシーズンの捕手の重要性。
話を聞き進めると、甲斐がいかに千賀というピッチャーを信頼して、深く理解をしているかも分かった。「千賀だから要求した」と球種やコースがあった。そして千賀もまた「拓也が上手くリードをしてくれたので、そこに投げただけ」と話す。やはりこの育成出身バッテリーは名コンビだ。
また、今年の日本シリーズでは、甲斐の捕手としての成長を大いに感じることが出来る。
毎年ポストシーズンになると「短期決戦における捕手の重要性」が唱えられるし、野村克也氏が「日本シリーズは、捕手にとって1球たりともおろそかにできない決戦の場。たった1球、根拠のないサインを出したことで、主導権を失い、敗北につながる危険性を秘めている。その緊迫感の中で学んでいく」と持論を述べていることも有名だ。