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宿沢さん、これが2019年の日本です。
スコットランドに挑み続けた30年。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/10/16 20:30
ボールを持った選手は、全ての味方の視線を受けながら15人の相手に向かって先頭を走る。それがラグビーという競技だ。
2つつながったスーパープレー。
このトライでは、ジャパンのスタッフの分析力が光る。
おそらく、スコットランドがドロップアウト後の防御陣形に課題を抱えていることを発見していたのだろう。反対のサイドが薄くなることを見抜き、左サイドに湧き出るように選手を配置して、数的優位を確立していた。
分析は、チャンスを作る場面までは想定できる。私が感服したのは、ラファエレのゴロパントの判断のタイミングと、その精度だった。
キックのタイミングは、相手との間合いによって決まる。ドンピシャのタイミングで出されたキックは、福岡にしか取れないものだった。
神懸かっている福岡は何事もなくボールを取ったが、これもまたスーパープレーである。私はここにジェイミー・ジャパンの強さを見る。
スタッフの鋭い観察眼と、攻略レシピの作成。
そして英語ならば、“execution”という言葉がふさわしいであろう、プランを最終的に実行、成功させる選手たちの力。
ここまでジャパンが強くなっていたとは……。
信じられない物語が現実になった。
1991年、宿沢さんは策を尽くして、なんとか「1.5勝」をもぎ取ろうとしていた。
2015年、エディーには策を練る時間が足りなかった。
そして2019年、ジェイミー・ジョセフは彼の現役時代そのままに、真正面からスコットランドと対峙し、普通に勝ってしまった。
策を弄することもなく、正攻法のままで。
30年という歳月は、信じられない物語を現実のものとした。
暗黒の時代はあった。それでも、時間は失われてはいなかった。
宿沢さん、あなたの後輩たちは素晴らしいラグビーで世界を魅了し、W杯で4勝を挙げたのですよ。
この日本で。
それが2019年の現実です。