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クラブ改革にビラスボアス就任も、
マルセイユを包む無関心の正体。 

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パトリック・ソウデン

パトリック・ソウデンPatrick Sowden

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photograph byNicolas Luttiau/L'Equipe

posted2019/09/12 11:00

クラブ改革にビラスボアス就任も、マルセイユを包む無関心の正体。<Number Web> photograph by Nicolas Luttiau/L'Equipe

マルセイユを指導するビラス・ボアス。酒井宏樹も在籍するフランスの名門で、指揮官は巻き返しに燃えている。

優秀な実業家なのは間違いないが。

 クラブ首脳たちは、構築すべきものの規模を誤ったのだろう。マルセイユではすべての時制をひとつに盛り込まねばならない。過去と現在、未来を同時に保証しなければ人々は納得しない。

「ここでの最大の問題は時間だ」と、エクサンプロバンス大学でスポーツマネジメントの教鞭をとり、スポーツマーケティングのコンサルタントでもあるリオネル・マルテーズ教授は言う。

「ビジネスとスポーツの両面において有能であり、同時に優れた政治人脈を持たなければOMの幹部にはなれない。限られた時間を有効に活用するためには、そうした人物の周囲に有効な関係を構築するしかないんだ。エイローはまだ完全に顔が利くわけではないが、効果的な政治人脈を築きあげた。

 彼にビジネスの手腕があるのは間違いない。クラブ再生のために、(本拠地の)ベロドロームの改修を含む多くの試みが企てられ実現した。彼が実業家として優れているのは疑いないが、クラブを効率的に継承するためには有能なマネージャーであることも求められる。さもないとすべてが破綻する恐れがある」

 自ら望んだとはいえ、エイローはただ1人で改革の最前線に立っている。

 フランク・マッコート(現オーナー)は当初こそ資金を投入したものの、ファイナンシャル・フェアプレー実現の力にはならなかった。またスポーツ面では、彼はガルシア(前監督)=スビサレッタ(スポーティングディレクター)のコンビから十分な協力を得られなかった。

 前者は不十分な戦力から最大限を引き出すことにのみ情熱を傾け、後者はその謙虚な性格ばかりが目立つのだった。ふたりとは性格が異なるビラスボアスとは、協力関係を深められるだろう。エイローが必要とするのは、彼の負担を軽減し広範な人脈を持ち全体に目配せができるマネージャーであり、ピッチの上だけに能力が限定された監督ではない。

育成が万能の特効薬のように……。

 改革を待つ間に多くの過ちが生じた。

「ありとあらゆる過ちをわれわれは犯した」と、ローラン・クルビスは認める。

「この3年間に獲得した10数人の選手こそ最悪だった。OMは“CLのために”というお題目のもとサラリーの無駄遣いの泥沼にはまり込んでいる。ケビン・ストロートマンがその典型だが、不必要な長期契約であるばかりか将来売れる見込みがなく、本人もどこに行く気もない。

 選手を売るべきなのは明らかだが、いったい誰を売ればいいのか? 育成に力を入れるというが、パパンやドログバ、リベリー(のような存在)を明日にでも育てられるのか? もちろん育成抜きにクラブの将来はあり得ない。ただ現状は、何もかもうまくいっていないから、育成がまるで万能の特効薬のように語られている」

【次ページ】 いったいどこに一貫性があるの?

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