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ラグビーW杯史に残る伝説のトライ。
ヘスケスが語る南アフリカ戦秘話。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byWataru Sato
posted2019/09/13 11:30
前回W杯の南アフリカ戦で逆転トライを決めたヘスケス。「それまでの練習の賜物であり、メンタル的にも準備していたから」こそ実現できたと話す。
サポートしてくれた人たちのために。
ヘスケスはニュージーランド出身である。日本代表に選ばれてからずっと、胸のなかで感謝の思いを温めてきた。
所属する宗像サニックスの監督やチームメイト、会社の社長、それに家族の顔が絶えず頭に浮かび、「サポートしてくれた人たちのためにも日本代表として勝利に貢献するんだ」との気持ちに芯が通っていった。南アフリカ戦のピッチにいよいよ登場した瞬間も、「メンタル的にはしっかりと準備ができていた」という。
スクラムを選択した日本は、右サイド奥深くまで展開し、そのままタテへ突き進むのではなく横へ動かす。ピッチを幅広く使う展開で相手を揺さぶり、数的優位が生まれていく。
左サイドの大外で待ち構えるヘスケスへ、アマナキ・レレイ・マフィからパスが通った。背番号23をつけた途中出場の30歳は、この試合初めて直接的にボールに関わることになる。
それも、これ以上はないというぐらい重要な局面で。
「絶対に落としちゃダメだ」
「自分にとってのファーストタッチで、しかもパーフェクトなパスが来たので、ものすごくナーバスになりましたね。『これは絶対に落としちゃダメだ。もし落としたら、あの大事な場面でミスをした選手として、マイナスの意味で名前が残ってしまう』と」
パスはしっかりとキャッチした。そのままインゴール左へ突き進む。指揮官エディー・ジョーンズの課す恐ろしくハードなトレーニングが、ヘスケスの身体をオートマティックに動かした。
「コーナーへ行くしかないというのは、本能的に分かっていました。内へ切るという判断もできたと思いますが、相手も迫ってきてタックルを受けそうだったので、もう行き切るしかない。あれはもう、練習の賜物だと思います」
タックルを受けた身体は左へ押し出されるが、ヘスケスは左手を空高く突き上げる。スタジアムを地鳴りのような歓声が駆け抜け、チームメイトが押し寄せてくる。