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ラグビーW杯史に残る伝説のトライ。
ヘスケスが語る南アフリカ戦秘話。
posted2019/09/13 11:30
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph by
Wataru Sato
日本のラグビーの、世界のラグビーの、世界のスポーツの歴史を、ひとつのトライが変えた。
2015年9月19日、ラグビーワールドカップ(W杯)の南アフリカ対日本戦は、誰も予想できない展開で進んでいった。五郎丸歩のペナルティゴールで幕が開き、前半は南アフリカが12対10でリードする。
後半も僅差の攻防が続いていく。両チームがスコアを重ねていくなかで、最大でも7点差までしか点差は開かない。
1987年から開催されているW杯で、南アフリカは2度の優勝と2度の3位入賞を果たしてきた。一方の日本は、過去8度の出場でプール戦と呼ばれるグループリーグを突破したことがなく、勝利の経験は91年大会のジンバブエ戦のみである。
「今日はもう出番はないかな、と」
南アフリカが32対29とリードしたまま、ゲームは最終盤へ突入していく。愛称スプリングボクスがリードするのは予想どおりでも、ブレイブブロッサムズがここまで食い下がるのは誰も用意できなかったシナリオと言っていい。しかも、日本の出足と運動量はここにきて勢いを増し、南アフリカのシンビンを誘う。
数的優位に立った日本は、敵陣深くで得たペナルティでゴールを狙わず、スクラムを選択する。スクラムには前半から手ごたえをつかんでおり、8対7で組めることも強気の決断を後押しした。
カーン・ヘスケスは78分に出場していた。このタイミングでピッチに送り込まれるのは、予定どおりだったとも、そうではなかったとも言える。
「後半になってストレッチをしておけよ、身体を温めておけよ、という指示はありました。プレーが続いていくなかで『出るならいまじゃないのかな』という場面もありましたが、時間が経っていきました。今日はもう出番はないかな、とも思いました」