甲子園の風BACK NUMBER

智弁和歌山が土を手でならす理由。
黒川主将「5季連続ノーエラーです」 

text by

米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

PROFILE

photograph byHideki Sugiyama

posted2019/09/01 08:00

智弁和歌山が土を手でならす理由。黒川主将「5季連続ノーエラーです」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

智弁和歌山が守備強化に本格的に乗り出した年、として2019年は記憶されるかもしれない。

猛打に加え、守備への意識が強まった2019年。

 智弁和歌山といえば、猛打のイメージが強い。明徳義塾戦の7回表の攻撃は、改めてその打撃力を強く印象付けた。しかし今年は、センターラインを中心とした守備のレベルも非常に高かった。

 高嶋仁前監督も守備練習には時間をかけて鍛えていたが、昨夏、中谷新監督が就任して以降、選手たちの守備への意識がより高まった。

 1年の夏から名門校で遊撃手のレギュラーをつかみ、今夏、黒川や捕手の東妻とともに5季連続の甲子園出場を果たした西川はこう語る。

「中谷さんがプロで学んだことや、これから先の野球人生において、知っておいたほうがいいことというのを、たくさん教えてもらいました。バントシフトだったり、牽制のタイミングもその1つ。そういう、大事なところで一発ピッチャーを救えるプレーというのは、この先も大事になってくると思う。

 バントの完全シフトとかはあまりやったことがなかったので、はじめは難しかったんですけど、毎日繰り返して繰り返して、あの大事な場面で成功できたのは僕たちの自信につながったんで、みんなこの先違う道に進むけど、絶対にこの先も活かせると思います」

成功したバントシフト、しかし……。

 西川が「あの大事な場面」と振り返ったのが、3回戦の星稜戦13回裏の守備だった。

 無死一、二塁から始まるタイブレークが導入されるこの回に入る前、主将の黒川は中谷監督に、「シフトやらせてください」と申し出た。

 一塁手と三塁手が打球に向かってチャージし、遊撃手が三塁ベース、二塁手が一塁ベースに入る、完全シフトと呼ばれているもの。星稜の代打、新保温己のバントが投手前に転がると、一塁手の佐藤樹が猛然と突っ込んでボールをつかみ、矢のような送球で三塁を封殺。前日の練習でも確認していたが、そのリプレイのように見事に成功した。

 エースの池田陽佑が続く知田爽汰、内山壮真を打ち取り、この回のサヨナラを防いだ。

 14回表の攻撃は1番・黒川からだった。その初球、黒川のバントは投手・奥川恭伸の正面に勢いよく転がり、三塁封殺。一塁を駆け抜けた黒川は天を仰いだ。

 160球を超えてもほとんど球威の衰えない奥川の前に、智弁和歌山はこの回も無得点に終わり、14回裏、星稜・福本陽生の3点本塁打で試合に決着がつけられた。

【次ページ】 緊迫した場面で、ギリギリの選択。

BACK 1 2 3 4 NEXT
智弁和歌山高校
松井稼頭央
中谷仁
黒川史陽

高校野球の前後の記事

ページトップ