甲子園の風BACK NUMBER
智弁和歌山が土を手でならす理由。
黒川主将「5季連続ノーエラーです」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/09/01 08:00
智弁和歌山が守備強化に本格的に乗り出した年、として2019年は記憶されるかもしれない。
「5季連続ノーエラーです」
敗戦の翌日、出発前の智弁和歌山の宿舎を訪ねると、黒川ははれぼったい目をしていた。
「あのバントミスした、奥川のインコースのボールが、何回もよみがえってきた……」
黒川は今大会、13打数1安打と苦しんだ。
「打ちたいって気持ちが強すぎて……。当たっても野手の正面とか、打った打球が抜けない。悔しさとか焦りとか、いろんなものがありました。まだ自分の実力はこんなもん。
甲子園は、うまくいっていた自分を、チャラにさせるというか、自分のあかんところのほうが多く出た場所でした。1年の夏と2年の春は無我夢中で何もわからなくて、先輩に自分が結果を出させてもらっていたけど、自立して、孤独になった時に、結果が出ない自分の弱さを感じました」
主将として臨んだ甲子園では、周りに弱いところを見せられない、自分がやらなければ、と責任を背負い込んだ。
それでもよりどころはあった。ともに5季連続出場を果たした西川と東妻だ。
「晋太郎と純平を見たくなるというか、あいつらを見て安心したところもありました」
最後の甲子園はまだ苦い思い出。しかし、守備の話になると、「5季連続ノーエラーです」と少しだけドヤ顔になった。
「手でならし攻める」は貫いた。
星稜の内野手たちが、土を手で……。
記憶にも記録にも残る名勝負の末、智弁和歌山は3回戦で甲子園を去ったが、残していったものもある。
8月22日に行われた星稜対履正社の決勝戦。星稜の内野手4人が、丁寧に、手で甲子園の黒土をならす姿があった。
遊撃手の内山壮真は、智弁和歌山戦の途中から、手でならすことを始めた。
「智弁和歌山の西川さんがやっているのを見て、自分もやろうと思いました。そういうのは大事だなと。そうした行動1つで、イレギュラーになる打球もならなくなったりするので、少しでもそういう確率を減らしたいなと思って」
真剣勝負の果てに思いが受け継がれていくのも、高校野球の魅力の1つだ。