甲子園の風BACK NUMBER
智弁和歌山が土を手でならす理由。
黒川主将「5季連続ノーエラーです」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/09/01 08:00
智弁和歌山が守備強化に本格的に乗り出した年、として2019年は記憶されるかもしれない。
緊迫した場面で、ギリギリの選択。
試合後、黒川は涙にくれた。14回表のあの1球を悔やんだ。バントをするつもりはなかったと言う。
「1球ファールにするつもりでした。中谷監督が、自分が一番結果の出るように、1球、セーフティでファールにすればいいということで、セーフティのサインを出された。1球ギリギリでファールにしたら、球場の雰囲気も変わって、リラックスできるやろ、と。
それで、次のボールで勝負するつもりでした。でも初球、インハイが来て、ピッチャー前に転がしてしまった」
1-1の延長14回。あの緊迫した場面で、そんなギリギリのプレーを選択していたことに驚かされる。
試合後の整列で、黒川は悔し涙を流しながら、星稜の奥川や山瀬慎之助に言った。
「日本一になるためにやってきて、負けてしまったんで、星稜が日本一にならなかったらオレは納得いかへん。頼むから、絶対に勝ってくれ」
勝つためには何でも、しかしフェアに。
入学時から「日本一」を目指してきた黒川の執念は並々ならぬものがあった。主将になってからは、嫌われ役になっても周囲に厳しい言葉を発し、チームを引っ張ってきた。日本一になるためには、どんなことでもする。しかし、フェアな心は失わなかった。
延長11回表に奥川がマウンドで足をつった様子を見て、その裏の守備につく時、黒川は星稜の内山に「奥川に渡してくれ」と言って、智弁和歌山ベンチにあった熱中症予防のサプリメントを渡した。
「足つって(マウンドを)下りるんも、対戦相手としてなんか嫌やなって。最後まで投げて欲しいっていう気持ちがあった。奥川とはU18の合宿で一緒にやって、人柄も知ってたから。誰にでも優しく対応する、めっちゃいいやつで、助けたくなるようなやつなんで」