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昨年より地味でも、昂揚した決勝戦。
改革なら甲子園を面白くする方法で。

posted2019/08/30 07:00

 
昨年より地味でも、昂揚した決勝戦。改革なら甲子園を面白くする方法で。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

履正社と星稜、力が拮抗した素晴らしい決勝戦だった。投手の起用法について考える時も、ここがスタート地点なのだ。

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中村計

中村計Kei Nakamura

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Hideki Sugiyama

 今年の夏の甲子園決勝の顔合わせは、じつは、昨年と「性格」が似ていた。

 片や総合力に抜きんでた大阪代表の優勝候補のチーム。片や絶対的エースがけん引する優勝未経験地域の雪国のチーム。

 だが、世間的な関心は、昨年ほどではなかった。いずれの「役」も類似してはいたが昨年ほどの物語性を持っていなかったからだ。

 まずは、大阪桐蔭と履正社。昨年の大阪桐蔭は、「史上最強世代」と呼ばれる根尾昂や藤原恭大といったスター選手がいて春夏連覇がかかっていた。それに対し、今年の履正社はU18日本代表に1人も選出されないなど、誰もが顔と名前が一致するような選手が不在だった。

 次に、金足農業と星稜。昨年の金足農業はエースの吉田輝星が地方大会から1人で投げ続けていただけでなく、投手以外の8人も秋田大会から交代することなく出場し続けていた。しかも公立の農業高校という甲子園ファンが心惹かれるエピソードに満ちていた。

 対する今年の星稜は、エースの奥川恭伸の力は突出していたものの複数人の投手を起用していたし、もともと北陸の強豪私学で優勝候補の一角にも挙げられていた。

 乱暴な言い方をしてしまえば、今年の両チームには、昨年ほどのインパクトがなかった。

 ただ、個人的には戦前、昨年よりもはるかにわくわくしていた。どちらが勝つか、本当に予想できなかったからだ。

正直に言えば昨年の大阪桐蔭は大幅優位だった。

 昨年の決勝は正直なところ、大阪桐蔭の打線の力量と、吉田の疲労を天秤にかけたら、9対1で大阪桐蔭が有利だと思った。ふたを開けてみれば、序盤で大勢は決まり、最終的には13-2というスコアで大阪桐蔭の圧勝に終わった。決勝1試合だけを抽出したら、決しておもしろかった大会とは言えまい。

 そこへ行くと、今年のカードは近年の中でも、いちばん昂揚したと言ってもいい。

 奥川は前々日の準決勝の中京学院大中京戦、中1日で決勝に投げることを見据え、7、8割程度の力で投げていたが、それでも強打線を7回無失点で抑えるほぼ完ぺきな内容の投球を見せていた。

 疲労は感じられたが、昨年の吉田ほどではない。奥川の技術をもってすれば、あの履正社打線も抑え込んでしまうのではないかと思えた。

【次ページ】 エースを休ませることは人気と両立できる。

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