マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
投手ほどテレビには映らずとも……。
甲子園で驚いた5人の野手の才能。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/08/22 12:00
ショートとしても、打者としても星稜・内山壮真の存在感は絶大。2年生にしてチームの中軸だ。
大会前の評価はさほどでもなかった三塁手。
宇部鴻城高・酒井隼平三塁手(3年・181cm90kg・右投右打)には、バッティングで驚いたというより、やっぱりな……と納得がいった。実はこの選手、夏の甲子園で私の「隠し玉」だった。
大会前、あちこちのメディアでこの選手の名前を挙げて、その潜在能力をお伝えしたのだが、「酒井君ですか……」、いつもキョトンとされてしまった。
山口県予選で試合を見ていた。まず、頭の高さにグリップを置いたふところの深い構えに強く惹かれた。
思い出したのは、東海大相模・原辰徳選手(現・巨人監督)だ。こういう、どっからでも来い! と大きく待ち構えるバッターが、最近は少なくなった。
投手には、イヤな構えだ。どう投げても、相手のツボに吸い込まれていく。そんな錯覚に襲われて、投げる前にすでにひとつ負けてしまう。
予選で、酒井隼平の左中間弾丸ライナーを目にした。弾道もすでに大人の凄みを帯びていたが、目を奪われたのはむしろスイングスピードと、振り抜こうとする打者としての覇気だ。
すさまじい空振り、すさまじいホームラン。
さらに感心したのが、低めの誘い球を丁寧に見極めていること。クリーンアップを任されるスラッガーなら初球からガツンといきたいはずなのに、そこにつけこんで投じてくる「打ってもヒットにならないボール」になかなか手を出さない。それを、甲子園でも出来るかどうか。そこを見たかった。
甲子園の最初の試合、2打席目だったか、やはり警戒されて「くさいボール」を続けられて、とうとう我慢できなくなって、エイッ! と振りにいった空振りのすさまじさ。
次の試合は出そうだな……と思ったら、出た。
見るからに打ちにくそうな明石商の左腕・杉戸理斗のクセ球を左右に3つファールしておいて、振り回したらいかんと気がついたのだろう。フワッと運ぶようなスイングに見えた。
彼のスイングスピードなら、それで十分だった。甘く入ったスライダーをサッと振り抜いた打球は、外野に行ってからクイッと伸びて、左中間のいちばん深い所に届いた。
注目したのは、ホームランの次の打席だ。
もう1本欲しがって振り回すかなと思ったら、見事なレベルスイングから強い打球がゴロになってセンター前に。智弁学園の頃の岡本和真(現・巨人)がちょうどこんな打ち方をしていた。
飛ばしたあとに基本のセンター返しに立ち戻って、自分のバッティングを「クリーニング」している。こういうのが、本当のバッティングセンスというものだろう。
このスラッガーが一生懸命練習したら、プロでクリーンアップが打てる選手になると見ている。