マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
全力投球“しない”奥川恭伸の技術。
彼の1球は他の投手の1球とは違う。
posted2019/08/22 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Hideki Sugiyama
この夏の甲子園、大会を代表する投手として1人挙げるとすれば、星稜高・奥川恭伸投手で決まりであろう。
150キロを、試合終盤でも捕手が構えたミットにきめられるパワーと技術。そしてスライダー、フォーク、カーブを自在に操る指先感覚の優秀さ……。それらの高い能力が、「総合力」という表現でプロ野球スカウトたちから賞賛されている。
それも確かにその通りだが、私はそれとは別に、こんな表現で投手・奥川恭伸に敬意を表したい。
球数制限を必要としない投手。
粒揃いの旭川大高を相手に94球完封。
この大会、最初の試合。旭川大高との一戦を見ていて、こんな投手なら「球数制限」の必要はほとんどないんだなと思った。
先発して9イニングを、シングルヒット3本、四球1つ、三振9つを奪って、投球数94球の1時間34分で完封してしまった。
北海道のチームだから……と安く見ちゃいけない。今年の旭川大高は粒選りの選手が揃っていた。
昨年夏の甲子園から2年連続の出場。春の北海道大会の時に練習を見に行ったら、選手のレベルが高くて驚いた。
「こりゃあ、今年の夏も旭大ですね」
そう振ったら、いつもならば「いやー」と謙遜する端場雅治監督が照れもせずに言い切ったものだ。
「私も手応えを感じてます!」
プロはともかく、大学ならレギュラーやローテーション入りできそうな選手が4人も5人もいる。それが証拠に星稜との試合、優勝候補を相手に一歩も引かない試合内容で、完封はされたが許した得点もわずか1点だった。
その旭川大高との試合、奥川恭伸の真骨頂は「打者の技量を計りながらのピッチング」だった。