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メダルは1人だけなのにチーム戦?
五輪自転車ロードレースの独特さ。
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byTokyo 2020
posted2019/07/31 17:00
一見個人での戦いに見えるが、チーム競技であるサイクルレース。そのルールの深みを知れば、ハマることは間違いない。
ロードレースの定石と多少の葛藤。
ヨーロッパの舞台で走ることを目指す26歳は、五輪をステップアップの場としても捉えている。
ただ、出世欲を持ちながらも、いざレースとなると話は別。たとえ、アシストの役割を担い、順位を下げても、自転車関係者はその働きをチェックしているはずだという。
「2人ではできることは限られていますが、(風よけになるために)前と後ろを交互に走ったり、協力して走ることもあるでしょう。それが互いのプラスになりますから。味方を助けることでも、充実感を得られます。チームに感謝されますし、みんなも盛り上がる。これがロードレース特有の文化です」
同じくテスト大会に出場していた中根英登(NIPPO・ヴィーニファンティーニ)は、日本代表として2018年アジア大会に出場し、アシストに徹したことがある。日本人初のツール・ド・フランス完走者の別府史之(トレック・セガフレード)と2人で走り、最後までエースのために働いた。ロードレースの定石とはいえ、多少の葛藤もあった。
「上り坂のゴールは、脚質(走るタイプ)的には僕の方が向いていたと思います。自信もありました。それでも、日本チームのエースは別府選手。あのときは、エースを助けるのが僕の仕事でした」
別府は日本人として8年ぶりに表彰台に上がった。銀メダルを首にかけられ、スポットライトを浴びるエースの姿を眺めると、中根はチームとして結果を出せたことを何よりも喜んだ。
サッカー経験者・中根のたとえ話。
自転車ロードレースの競技者やファンからすれば、当たり前のことだろう。それでも、他の個人競技を見慣れてきた者からすれば、どこかすっきりしない気もする。高校時代までサッカーに打ち込んでいた中根は、説得力のあるたとえ話をしてくれた。
「サッカーの試合を思い浮かべてください。ゴール前でアシスト役に回ってラストパスを出すのか、ストライカーとしてシュートを打つのか。チームの勝利を考えれば、ゴールの確率が高いほうを選びますよね? パスを出して、チームが勝てばうれしいはずです。
これは自転車も同じ。あの場面でチームとして勝つ確率の高かったのは、経験値があり、場慣れもしている別府選手でした。僕自身もそれは納得しています。双方のリスペクトがあり、成り立っているんです」